【圧倒的迫力に酔いしれる《東福寺展》】

こんにちは!《美術品・骨董品専門のオークションサイト》サムライオークションスタッフの井戸です。

先日、東京国立博物館にて開催されていた【東福寺展】に遊びに行ってきました。

「圧倒的スケール」「すべてが規格外」

これらのキャッチコピーだけでワクワクが止まりません。

本展での「圧倒的スケール」の象徴が釈迦如来 四天王像や仏手による木彫りの像たちです。広大さもさることながら彫りの細かさ、表情、衣類のしわ、指先のゴツさなど細部の細部にまでこだわり抜かれたクオリティに圧倒されました。仏手以外は撮影NGな為、写真はありませんが、四天王像などの目は砡でしょうか。命が吹き込まれており、力強い生命力を感じます。

焼け残りの仏手に至っては2m17cmもあるとのこと。手だけでこのサイズということは本像はどれだけのサイズだったのでしょうか…開いた口が塞がらないとはまさにこういうことを言うんだなと。

さて、順路は前後しますが、本展のもう1つの見どころが吉山明兆の五百羅漢図。ここは「すべてが規格外」の象徴と私は感じました。

明兆の羅漢図は全部で50幅。この時点で規格外です。更に14年もの歳月を掛け、総勢70人もの職人による大修繕は代え難い苦労があったことでしょう。

描かれている羅漢たちの神秘な表現や極彩色、毛線の細さの他に、みんなでお風呂に行ったり、剃髪をしたりと親しみを覚える描写が多数でとても楽しめます。中には漫画風な解説を入れたユニークな運営側の施策なんかもあったりしますよ。

本展は第1会場と第2会場で別れていますが、1会場辺り少なくとも2時間は滞在していられる程充実した内容です。

また、まだ春ではありますが、東福寺の絶景スポット通天橋を紅葉の景色で再現したフォトスポットも展開しています。夏を通り越して秋の装いですが、10月からの京都会場ではジャストタイミングで開催されますので、西にお住いの方は是非【東福寺展】に足を運んでみてください。

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【まだまだ“お花見”を楽しみたい方へ!「桜」がテーマの日本画展『桜花賞展』開催中。5月14日まで】

関東ではすっかり桜の花が散り、新緑の季節らしい風景が広がってきています。東北や北海道辺りではまだ桜が楽しめる頃でしょうか。

ほんのわずかな期間のお楽しみである桜の開花。「満開の桜をじっくり楽しむ時間が持てなかった」という方や、名残惜しさで「もっと桜を楽しみたかった」という方もいるのでは?

そんな方に朗報です。東京都目黒にある〈郷さくら美術館〉では、桜を主題とした展覧会『第10回 郷さくら美術館 桜花賞展』が、2023年5月14日(日)まで開催されています。

本展は、今後の活躍が期待される日本画家30名に「桜」をテーマにした作品の制作を依頼し、それらを一同に展示するコンペティション形式の展覧会。作品のなかから大賞、優秀賞、奨励賞が選出されています。

さらに、同館が所蔵する高名な日本画家の桜屏風9点を展示した『桜百景vol.30』も同時開催。併せて39点もの見ごたえたっぷりの桜作品が並び、改めて「お花見」を楽しむような内容になっています。

本展は3フロアに分けて展示が行われており、1階には『桜百景vol.30』の9作品が。 入館してすぐ目に飛び込んできたのは、日本画家・中島千波さんの大作『櫻雲の目黒川』。四曲一隻の屏風いっぱいに満開の桜が描かれています。

目黒川にかかる橋の欄干の緋、川の両側に植栽された緑、晴天の青、どこまでも続くような奥行のある桜色のグラデーション。作品に近づいてみると、岩絵具で描かれる花びら一枚一枚の玻璃のような透明感が、まるで本物の花びらのよう。日本画ならではの繊細な奥ゆかしさに小さな感動を覚えました。また、桜というモチーフを日本画で描くことの意義を、この作品に見た気がしました。

続いて、福島県の「三春滝桜」をモチーフにした、牧進さん、平松礼二さん、林潤一さんの大屏風3点が並び、その迫力たるや! 今まさに満開の桜に立ち合えているような感動をもたらしてくれます。

ほかにも日本画壇を代表する画家の作品が1階を埋め尽くし、もうこのフロアだけでもかなり心満たされる思いです。

さて、2~3階には、本企画の大テーマである「桜花賞展」の作品が並びます。

満開の夜桜をダイナミックに描く人、薄曇りに咲く桜を淡く儚く境界線も曖昧に描く人、葉桜に美しさを見出す人、神話にインスピレーションを得た桜の画を描く人、歌舞伎座に舞う桜吹雪を描く人――そこに並ぶ作品は、雰囲気も、技法も、解釈もさまざま。

今回のコンペティションで大賞を受賞したのは、1997年生まれ・滋賀県出身の工藤彩さん。『桜の間』と名づけられた作品のモチーフは、枝をしならせるような満開の桜ではなく、太い幹にひっそりと顔をのぞかせる数輪の花。

樹齢を重ねた古木でしょうか。ごつごつとした老齢の木肌に芽吹いた新しい命。苔や蔦などのさまざまな生き物たちの共生の場。見上げてばかりの人の目には映らない、静寂のなかのたくましい生は、美しい“詩”のように感じ、心打たれました。

どれも魅力的な作品ばかりですが、個人的にすてきだなと感じた作品はこちら。明壁美幸さんの『よろこびが咲き渡る』です。

福島県白河市の南湖公園にあるベニシダレを描いたという作品。薄曇りのある日、いつもよりも少し温まった風に春の到来を肌身で感じる。そんな喜びをこの作品で思い返し、見ているだけでワクワクした気持ちになりました。

また、小俣花名さんの『旅立ちの日』は、中学生の頃に亡くなった父との記憶を描いた作品。手毬のようにポンポンと咲く桜や、幼い頃の体験や思い出が曼荼羅のような緻密さで描かれ、ほかの作品とは違った趣きのユニークさが印象的でした。

さまざまな角度から、さまざまな構図で、それぞれの思いを託し、描かれた30の桜作品。日本人にとっての桜の重要性、必要性などを改めて思うような、そんな展覧会でした。

今回の展覧会を行う〈郷さくら美術館〉は、昭和以降の生まれの日本画家の作品を中心にコレクションし、現代日本画の魅力に触れる場として設立された美術館です。活躍中の日本画家の支援、新たな才能の発掘・育成にも取り組んでいます。

今回の『桜花賞展』以外にも、毎回テーマを設けたコレクション展が年に4・5回開催されています。同館が誇る珠玉の日本画コレクションを目にし、心豊かな時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

Information

第10回 郷さくら美術館 桜花賞展

場所:郷さくら美術館(東京都目黒区上目黒1-7-13)

会期:2023年3月7日(火)~5月14日(日)

開館時間:10時~17時(最終入館16時30分)

休館日:月曜

TEL:03-3496-1771

サイト:「郷さくら美術館」HPはこちら

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【「渋沢栄一」ゆかりの施設に有り!今昔を自由自在に行き来する「山口晃」作品〈バッタリ出合った名画シリーズvol.1〉】

出かけた先で、たまたま大好きな作家の作品に出合うこと、ありませんか? 「ここに、こんな名画が⁉」と、驚きとともにしばらく鑑賞し、なんだかホクホクした気分になったり。近くを訪れたら、つい立ち寄るスポットになっていたりして。

今回は、サムライオークション・スタッフが個人的にバッタリ出合い、つい足を止めて見入ってしまった、弊社独自の視点による「名画」をご紹介します。

その作品とは、山口晃さんの「養育院幾星霜之圖」(2013年)。飾られているのは、東京都板橋区にある〈東京都健康長寿医療センター〉の1階。エレベーター前の広々とした空間で、やさしく淡い色彩ながらも、威風堂々とした存在感を放っています。

山口晃さんは、日本の現代美術家、現代浮世絵師。大和絵、浮世絵、鳥瞰図、合戦図など、日本古来の絵画様式を油彩で描くなど、古くて新しい視点と、じつにユーモラスで心くすぐる作品を手がける画家です。

2019年のNHK大河ドラマ「いだてん 〜東京オリムピック噺〜」のオープニング・タイトルバックを担当したことでも話題になり、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

そんな山口さんの原画作品を、こんなにも間近で見られるとは! たまたま病院を訪れて、ふいにこの大作と出合ったときは、胸が高鳴りました。

横幅2m以上はあるであろうキャンバスには、昔ながらの長屋や西洋様式の建物、そのなかで過ごす人々の姿が描かれています。丁髷に着物姿の人、洋装の人、白衣や作務衣を着た医師らしき人や看護師など、過去と現代が融合したような世界観。

じつはこちら、〈東京都健康長寿医療センター〉と、その前身である〈養育院〉を、歴史の年表と共に描いた作品になっています。

明治5年、救貧施設として本郷に開設された〈養育院〉は、神田和泉町、本所長岡町、上野護国院跡、大塚辻町、現在の板橋と、都内あちこちに拠点を移してきました。その変遷が絵と文章で描かれています。

「ヤレヤレ マタ移動ダ」と引っ越しをする人物のボヤキ、昭和45年11月に提供されていた食事の献立内容も。山口さんの描くモチーフや視点がなんとも面白く、ついニンマリしてしまいます。

ところで、この作品のモチーフである〈養育院〉は、かの渋沢栄一さんが大きく尽力した施設。養育院開設の7年後には院長に就任し、半世紀以上に渡って同院の維持・発展に貢献したといいます。

それらの功績を示すべく、〈東京都健康長寿医療センター〉の2階には「渋沢記念コーナー」が設置されています。渋沢さんによる書や手紙、書籍や資料も多々。〈養育院〉の歴史、関わった人物、医療・福祉の発展の経緯などを知ることができ、もはやひとつの資料館。

山口さんの作品とあわせて覗いてみると、日本における医療や福祉の起こりや、その変遷など、興味深く感じられるはずです。

そして、「渋沢記念コーナー」には小さな図書室もあり、病院を利用する人に向けてさまざまな本の貸出を行っているようです。

さて。 話は山口さんの作品に戻り、絵画の以下の部分を見て、もしかしたら……と思っていたことがありました。〈東京都健康長寿医療センター〉の1階にはカフェがあるんです。

病院を出て「やっぱり!」と確信。絵画には現建物とその内部が描かれているのでした。

この円柱部分の1階はカフェ。そしてさきほど紹介した「渋沢記念コーナー」と小さな図書室はこの2階にあります。リアルとイマジネーション、現在と過去とを自由自在に行き来する山口さんの作品に、改めてノックアウトされてしまいました。

〈東京都健康長寿医療センター〉という場所柄、入院されている方々、そのご家族や関係者などを、クスッと笑顔にさせているであろう山口さんの「養育院幾星霜之圖」。病院を訪れる機会はないに越したことはありませんが、もしも訪ねる際は、本作品を探してみてはいかがでしょうか。

Information

地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター

東京都板橋区栄町35番2号

※病院という場所柄、作品鑑賞のためだけに訪れるのはご遠慮ください。

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【7つの魂を解き放つ、杜昆さんの個展「七魄」〈ミヅマアートギャラリー〉にて開催中】

日本及びアジア圏における独自の感性を持ったアーティストを発掘・支援・紹介する〈ミヅマアートギャラリー〉。1994年に東京・青山にギャラリーを開いて以降、2008年に北京に、2012年にはシンガポールにも開廊。近年はアートフェアにも積極的に参加し、国際的に活躍する作家を多数輩出しています。

現在、新宿区に置かれた〈ミヅマアートギャラリー〉では、2023年4月8日(土)まで、中国人アーティスト・杜昆(Dù kūn/ドゥ クン)さんの個展「七魄」が開催されています。

4歳の頃から絵を描き始め、北京の中央美術学院油絵学科を卒業。現在は北京を活動拠点とし、独創的で卓越した技法でその名を知られる、国際的なアーティストです。

同ギャラリーのサイトで知った杜昆さんの個展。そこに掲載されている作品画像は、一見すると中国の伝統的な山水画。でも、なにか底知れぬ特異さがモニター越しにも感じられ、どんな作品に出合えるのかワクワクしながら個展を訪ねました。

そして、実際にギャラリーに足を踏み入れた瞬間、なにか時間が止まったような、精神的というのか、信仰的というのか、そこに漂う空気さえも少し緊張しているような雰囲気が、会場を包んでいました。

展示されているのは、数メートルにおよぶ巻物作品や、軸の14点。そして、ギャラリー中央にはバネや金属棒などがさまざまにつけられた奇妙な木箱。

おもに正絹に墨と岩絵具によって描かれた風景画が、それぞれ美しく表具されています。モチーフは、霞む仙境や渓山、港に停泊する船、荒波を縫う帆船、静寂の霊廟や寺院、暗雲と龍など。その幽玄な世界は緻密な筆致で見事に描かれ、作品を眺めるのにも思わず息を潜めてしまうほど。

ギャラリーのスタッフの方から「こちらの映像を見ていただくと、作品の制作について理解が深まります」と案内され、映像が流れる部屋へ。

モニターには杜昆さんと思われる人が、あのギャラリー中央に置かれていた木箱を操って音を奏でています。ということは、あの箱は「楽器」!?

そして、この映像を見て気づいたのが、今回展示されている作品は、古来の山水画の技法を踏襲したものではないということ。むしろ、まったく新しいアイデアと手法で描かれています。

下の写真の「蝉噪」と書された巻物作品を見て、なにかしらの既視感を抱く人がいるでしょうか?

たとえば、心電図のパルス信号。なにかの実験で示された波形。そんなイメージを持つ人も多いはず。

じつは杜昆さんの作品は、彼自身が作曲し、奏でた音楽を“音波”として視覚化し、その音波を風景に当て込み、画を描いているのです。

美術学院在学中にロックミュージシャンとしてプロデビューした杜昆さん。アーティストとして音楽と絵画のふたつの要素をいかに結合できるかを求め続けてきたといいます。その到達点として、音楽を視覚的に作品に落とし込む風景画シリーズが誕生したのだとか。

そして、本展にむけてオリジナルの楽器「Seven Souls」を設計・製作。それがギャラリー中央に配置された木箱です。

縦バネ、伸縮自在のバネ、鋼の棒、カリンバ、小古筝、テルミン、カホンという7種の楽器がこの箱に融合されています。この「Seven Souls」を音源とし、そこから発せられる音楽的要素を音の波に変換し、巻物上に描いています。

本展タイトル「七魄」は、日本語に訳すと「7つのタマシイ」。道教の魂と精神の解釈である「魂魄(Soul/Hún pò)」をコンセプトに、陽のエネルギーに属する3つの「魂」と、陰の側に属する7つの「魄」をこの楽器に宿し、演奏することで、閉じ込められた「魂」が解き放たれる、と杜昆さんは「作家ステートメント」に記しています。

つまり、今回展示されている作品は、この「Seven Souls」という楽器で演奏された14の音楽が変換された作品であり、それぞれが魂の開放の試みであるということ。なんだか深遠な世界……。

杜昆さんは1982年生まれ。その卓越した画力、技法、独創的な視点は、今後も深く掘り下げられ、今後ますます世界的に名を轟かせる存在になるのではないでしょうか。

Information

杜昆「七魄」

場所:ミヅマアートギャラリー(東京都新宿区市谷田町3-13 神楽ビル2F)

会期:2023年3月8日(水)~4月8日(土)

休廊日:日・月曜、祝日

時間:12時~18時

観覧料:無料

TEL:03-3268-2500 リンク:ミヅマアートギャラリー

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【文房清玩の目利き〈百八研齋〉渡邉久雄さんを訪ねて】

2月某日、〈百八研齋〉の渡邉久雄さんを訪ねました。

「文房清玩(注)」の目利きとして知られる渡邉さん。15歳から奉公していた浅草の書道用品専門店〈宝研堂〉で古硯と出合い、見たことのない色、姿形、彫刻などに魅了されたといいます。以降、硯、筆、墨、印材など、文房にまつわる多くの名品・珍品を蒐集。定年までの50年間、公私共に文房清玩と歩んできました。

文房へ向けられた情熱は退職後もなお冷めやらず、むしろ渡邉さんの“人生”ともいうべき大趣味に。膨大なコレクションを自宅の書斎に展示し、屋号を〈百八研齋〉と定め、文房の愛好家へとひらいてきました。さらに、東京都葛飾区立石に店舗を構え、多くの人に文房清玩の魅力を発信しています。

(注:文房清玩とは、筆墨硯紙といった文房四宝に加え、水差し、硯屏、文鎮、印材など、中国の文人が賞玩した品々のこと)

今回、店舗だけでなく、自宅の書斎兼ギャラリーに通していただき、渡邉さんのさまざまなコレクションを拝見。「すばらしいものを、数多く見るということが大切なんです」と、書斎の片隅から、奥の倉庫から、2階から、何度も部屋を出入りしては、数多くの名品を広げてくださいました。

そのうちのひとつがこちら。1970年代に彫られた、端渓石の「雲龍有眼硯」です。

比較的年数の若い、縦横30センチ程の大ぶりな硯ですが、龍の口元、爪、鱗に至るまで妥協など一切ない、ミリ単位の緻密な彫り。触れるのが怖いほどです。

「私もこの硯を見たときは、鳥肌が立ちました」と渡邉さん。

彫りの凄まじさもさることながら、突然表れる石眼(石の紋様)を、なぜこのように自然な形でモチーフに含め活かすことができるのか……手がけた職人の技術力の高さと、圧倒的な感性に驚愕しっぱなしの作品でした。

中国へ何度も足を運び、硯の産地を訪ね、現地の人とさまざまな交友関係を築いてきた渡邉さん。その審美眼と情熱を認められているからこそ入手できた貴重な品も。

こちらは安徽省の歙州硯(きゅうじゅうけん)の産地を訪れた際に譲り受けた「歙州硯石紋三十種」。世界に2点のみ存在する、貴重な資料です。

硯のほかにも、印材、墨、文化大革命前につくられたという入手困難な毛筆、中国の吉祥文様が描かれた蝋箋など、姿の美しい品々がずらり。

できるならば、ひとつひとつを時間をかけてじっくり眺めて過ごしたい……。そんな欲望をふつふつと湧かせる書斎は、もはや美術館にも勝るとも劣らない、唯一無二の場所だと感じました。

渡邉さんの活動は、中国のすばらしき品々の蒐集だけではありません。日本の文房にまつわる作家の偉業を後世に伝えていきたいと、趣向を凝らした資料制作にも力を入れています。

下の写真は、近代日本の篆刻家・中村蘭台、二代目蘭台秋をはじめ、大正・昭和期に活動した約60名の印人の篆刻作品をまとめた『百八研齋蔵印選』。約20年かけて印を100点ほど集め、篆刻印、側款、画をつけ、8巻にもなる資料を制作しました。

また、現在取り組んでいるのは、明治期に紀州の墨づくりを復興させ、多くの銘墨を残した鈴木梅仙の「梅仙墨」の資料制作。数年をかけて20点ほど蒐集し、『百八研齋蔵印選』とは趣向を変えた資料づくりを進めているのだとか。

希少で貴重な品をひとつでも多く後世に残し、文房清玩の文化や魅力を永続的に伝えていきたい、というのが渡邉さんの切なる願い。「どうか譲ってほしい」と申し出る客人もいるようですが、一度手放せば二度と手に入れることは不可能に近いものばかり。だからこそ手放せない、といいます。

そして、若い人にこそ、これらのコレクションを見て、触って欲しいという渡邉さん。

「今は硯も墨も売れなくなっている時代。筆の職人さんなんかは年々少なくなっています。でも、こういった姿形の美しいものがたくさんあるということを、若い人たちにも知ってもらって、たくさん見て、目を肥やして、文房清玩の世界に興味を持ってもらいたい。文化を繋いでいってもらいたい。若い人にこそ、間近で触れられる資料として、どんどん見せていきたいんです」

年内には渡邉さんが所蔵する108点のコレクションを紹介する書籍を上梓する予定。さらに今後、個展の開催も視野に入れているのだとか。

日本の文房界において大きな偉業と名を残すことは間違いない渡邉さん。これからの活動にも注目必至です。

Information

百八研齋

住所:東京都葛飾区東立石3-25-14

TEL:03‐5875‐7590

営業時間:10時~18時(日曜は17時まで)

定休日:月曜、祝日

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【桃の節句の「ひな飾り」を、骨董やアンティーク雑貨で楽しむ】

3月3日の「桃の節句」も、間近です。

この時期になると、旧家では代々受け継ぐ「七段飾り」や「御殿飾り」といったひな飾りを出し、眺めて楽しむご家庭もあるのではないでしょうか。城下町などでは、武家屋敷に伝わるひな飾りをそれぞれの自宅に展示し、一般に向けて公開する、地域ぐるみのひな祭りを行うエリアもあります。

近年は住宅事情により、殿・姫・三人官女の「三段飾り」、または殿と姫のみの「親王飾り」で楽しむご家庭が多いと思いますが、我が家のひな人形も、親王飾り。

娘の初節句に購入した、人形作家・柴田家千代さんによるひな人形です。

眉がキリリと引き締まり凛とした表情の殿と、ふっくらとした頬に少し幼さが残る姫の顔。全体の雰囲気をぐっと引き締める高貴な紫の衣装と、桜色のグラデーションの十二単。背後にはモダンな屏風。殿と姫のふたりだけのシンプルな飾りですが、華やかさと重厚感をリビングにもたらしてくれ、とても気に入っています。

お顔や衣装だけでなく、台座、菱餅、花飾り、ぼんぼりと、さまざまなパーツのひとつひとつに改めて目を凝らすと、こんな所にこんな意匠が! と初めて気づくものもあったりして、日々眺めて楽しんでいます。

さて、本格的なひな飾り以外にも、玄関やちょっとしたスペースに桃の節句をイメージさせるものを置くだけでも、季節感をもたらし、楽しいもの。

我が家では、骨董市で手に入れた対のこけしを玄関に飾りました。8センチほどの小さなこけしですが、かわいらしい存在感で、私たち家族を見送り、出迎えてくれます。

男の子の胴体には、萩とスズメ。女の子にはバラと瑠璃色の鳥が緻密に描かれています。二羽は言葉を交わしているようにも見えますが、瑠璃色の鳥はスズメを相手にしていない様子。こけしの男女、二羽の鳥、植物と、描かれているこれらのモチーフには、なにか隠された意味があるのかもしれません(読み解けた方はお知らせください!)。

我が家の玄関に飾るのは、だいたい骨董市でみつけた古いもの。季節や節句ごとに飾りを変えています。「このお飾りを出す時がきた!」と品々を出し入れするのは、案外楽しいひとときです。

マンションやモダンなお家に古い民藝品などを置いてみると、思った以上に空間にしっくりはまることも。節句などの日本伝統行事の際に使えそうなお飾りを探しに、骨董市などに出かけてみるのもいいかもしれません。もちろん、サムライオークションに出品されている品々もぜひチェックしてみてください。

さて、ひな祭りに関連した展示をご紹介します!

東京・日本橋にある〈三井記念美術館〉では、「三井家のおひなさま」展を3年ぶりに開催中。三井家の夫人や娘たちが愛したひな飾りは、日本屈指の財閥ならではの絢爛さ。約3メートルにもなるひな段飾りや、銀細工でできたひな道具の展示も。衣装も顔立ちも、時代によってさまざまなおひなさまをぜひ見比べてみてはいかがでしょうか?

Information

三井家のおひなさま

場所:三井記念美術館(東京都中央区日本橋室町2‐1‐1 三井本館7階)

会期:2023年2月11日(土)〜2023年4月2日(日)

時間:10時〜17時 (最終入場時間16時30分)

休館日:月曜日、2月26日(日)

観覧料:一般 1,000円、大学・高校生 500円、中学生以下無料 公式サイト:三井記念美術館

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【アーツ千代田3331にて開催された「末広町蚤の市」】

こんにちは!《美術品・骨董品専門のオークションサイト》サムライオークションスタッフの井戸です。

先日1月15日(日)に行われた【末広町蚤の市】に遊びに行ってきました。
今回は半日(12:00~18:00)のみの開催で行われ、入場待機組も発生する大盛況な企画となっていました。

会場となる〈アーツ千代田3331〉は2010年に旧千代田区立練成中学校を改修して誕生したアートスポット。アート、建築、デザイン、歴史などのカルチャーの発信を行っている下町を代表するカルチャースポットとしてひらかれています。

校舎を改修しているだけなので、施設内も学校の面影そのままに、訪れた誰しもがノスタルジックに浸るポイントだと思います。

入口のインフォメーション右手には玄関口という意味がこもっているのでしょう、下駄箱が設置してあり、何十種類というアート展などのチラシが置いてあります。
(サムライオークションのチラシも置かせてもらったのでよろしければお手に取ってみてください。)

下駄箱を抜け、蚤の市の会場となる半地下へ階段を下ります。
…不思議ですね、利用していた学校ではないのに学生時代のシーンなど思い出してしまいます。

そんなことはさておき!

会場は2教室を使った14店舗で構成されていました。
人が多かったので写真撮影は自粛しましたが、各業者さん独自の感性に基づいたセレクトをしていて興味深く、生活骨董に対する需要の高さを認識しました。

そんな中、あるブースに金箔、銀箔があしらってある数枚の和紙のカードに目を奪われました。どういったモノか店主さんに尋ねたところ

「江戸期頃のカルタの中に混ざっていたモノで、どういう用途かは不明です。
ただ、見た目もお洒落だし持っていても飾ってもおもしろいんじゃないかなって思います。」

この言葉を聞き、私の中で引っ掛かっていたモノがほどけました。

従来の私は「〇〇は〇〇として使わなければいけない」と固定概念の塊のような感情がありました。が、違う見方、使い方、感性があるんだなと。

見方や感性を変えることによって、この和紙のカードの使いどころが沢山浮かんできます。もう使われなくなった古道具でも、持ち主のプロデュースでどんなモノにでもうまれ変わることができる。

蚤の市は”自分にはこういう感性はなかった!””こういう使い方もできていいね!”など発見と交流の場。そんな場所だと私の中で認識しました。

「常識からの逸脱」

この業者さんに出会えたことで、自分の殻が破れたそんな出会いに感謝です。ありがとうございます。この目線で他の商品を見ていると色々な想像ができ、時間を忘れとても楽しい催事になりました。

あいにく、今年の3月をもって〈アーツ千代田3331〉は閉館となり、長い歴史に一旦幕を閉じます。
現段階では、新たな施設の場所や内容は未定。何か情報があるとしたらSNSで告知されると思いますので、要チェックです。
長い間、お疲れ様でした。アーツ千代田3331のカムバックを楽しみに待ちたいと思います。

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【東京・銀座〈ポーラ ミュージアム アネックス〉にて12名の新進アーティストによる展覧会「Chroma Distance」を開催中】

化粧品ブランド〈POLA〉が、東京・銀座に〈ポーラ ミュージアム アネックス〉というギャラリーを構えているのをご存じでしょうか。

伝統・食・芸術といった文化の発信地であり、古きも新しきもが織り交ざる銀座の街において、気軽にアートを楽しみながら、感性や美意識を磨くことができるカルチャースポットとしてひらかれています。

同ギャラリーでは2023年1月20日(金)~2月5日(日)の期間、展覧会「Chroma Distance」が開催されています。12名の新進アーティストによる、さまざまな手法を用いた作品が約40点展示されるとあって、お邪魔してきました。

ポーラ銀座ビルの3階を丸ごと割いた展示スペースには、白い空間を彩るさまざまな絵画やパネル作品が。フロアの中央には、ユーモラスなポーズをとる小人のような立体作品も置かれています。

ぐるっと館内を見回すなかで、まず目が釘づけになったのは、こちらの作品。

「できるだけ考えないようにする」「かなしいことも、うれしいことも」と題された相川恵子さんのふたつの作品です。

顔の中にも顔があるように見え、その表情はさまざまな感情を訴えかけてくるよう。この人物は、日常の大きな変化のなさに安堵しつつも、なにも起こらないことへの不満も抱え、代り映えのない無表情な毎日を過ごす私自身を投影したようでもあるし、もしかしたら一見穏やかな知人の、内に込められた鼻息の荒い憤怒の表情かもしれない……。

この人物が誰なのかはわかり得ないし、その表情の意味を知る必要もないのかもしれません。「できるだけ考えないようにする」――これがベストな答えである場合も、ときにはある。そんなことに考えを巡らせた作品でした。

続いて、ぐっと興味をそそられた作品は、沼田侑香さんによるプラスチックビーズ作品。見ての通り、よく知られたお菓子のパッケージがモチーフになっています。

5ミリ程度の小さなビーズを敷き詰め、アイロンで圧着させたこの作品。ファミコン時代のピクセル画像を思わせ、なんだかビープ音さえも聴こえてきそう。

デジタルのなかで構築した「キャベツ太郎」のパッケージの歪みや、「かっぱえびせん」と融合するグラフィティ。それらをアイロンビーズというアナログな手法を用いて作品化することで、デジタルとアナログの中間――つまり、2次元でも3次元でもない、新たな次元の表現を試みているといいます。

ほかにもどんな作品を制作しているのか。ますます興味がそそられました。

続いて、夜間の首都高の煌めきを彷彿させる、大村雪乃さんの作品です。

ところで、どんな画材を用いているかわかりますか? じつは事務用品でもお馴染みの「丸型カラーシール」。大きさも色もさまざまなシールを黒ベースのパネルに貼り、リアルな風景画に仕立てています。

美術大学で絵画を専攻していた大村さんは、アートは誰もが楽しめるもののはずであるのに、専門的に学んだ人だけの技法ともいうべき油絵に疑問を抱き、アートを身近に感じられるアイデアを模索。そのなかで丸型シールを用いた作品に辿り着いたのだとか。

さまざまな作品展に精力的に出展し、これまでに多くの賞を受賞。さらには某TV番組で、丸型シールアートを査定する講師役としても出演しています。そんな大村さんの作品を間近で見るチャンスです。

ほかにも、アイデンティティの親密な描写、崩壊と再生、時代の交差などをコンセプトに、技法、規模感もさまざまな現代アート作品が展示され、若手作家のリアリティを垣間見るような時間となりました。

入場は無料。気に入った作品は購入も可能です。

会場となる〈ポーラ ミュージアム アネックス〉は、年間を通じてさまざまな無料の企画展を行っています。ポーラ・コレクションをはじめ、現代美術、伝統工芸・芸能、民族芸能、世界情勢のうねりに関連する展示など、多彩な企画展は見ごたえあり。また若手アーティストの支援となる活動も積極的に行っています。

今回の展覧会「Chroma Distance」をはじめ、今後の同ギャラリーの企画展にも、ぜひ注目してみてください。

《Information》

Chroma Distance

場所:ポーラ ミュージアム アネックス(東京都中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル 3階)

会期:2023年1月20日(金)~2月5日(日) ※会期中無休

時間:11時~19時(入場は18時30分まで)

料金:無料

TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル) リンク:ポーラ ミュージアム アネックス 公式サイト

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【江戸に華やぐヴェネチアの「粋」に酔う「彩のガラス達 魅惑の世界」を〈東京芝 とうふ屋うかい〉で開催中】

東京タワーの麓に佇むとうふ会席料理店〈東京 芝 とうふ屋うかい〉。2023年12月20日(火)~2023年3月26日(日)の期間、同店内にて「彩のガラスたち 魅惑の世界 ―江戸に華やぐヴェネチアの『粋』―」と題したヴェネチアン・グラスの展示・販売会が行なわれています。 うかいグループが運営する〈箱根ガラスの森美術館〉のバイヤーがセレクトした、イタリア・ヴェネチアの名匠による希少価値の高い商品をさまざまに堪能できるとあり、先日〈東京 芝 とうふ屋うかい〉へお邪魔してきました。

と、ヴェネチアン・グラスの話の前に。

〈東京 芝 とうふ屋うかい〉を初めて訪れた私は、「本当にここは東京なのだろうか……?」とうろたえるほど、喧噪とは無縁の、まさに非日常という言葉がピタリと当てはまる空間に圧倒されてしまいました。

約2000坪の敷地を有する同店。長屋門をくぐって石畳を進み、庭師さんが毎日手を掛けているであろう美しい日本庭園に心を奪われながら店舗へ。

庭園ではさまざまな和の草木が枝葉を揺らしており、その彩りや配置は、花の時期、紅葉期、冬枯れ期などを徹底的に考慮したものであることは明らか。店舗に入る前から、創設者の並々ならぬこだわりや美への探求を感じ、ヴェネチアン・グラスの展示はもちろん、建造物や館内の設えにも期待は膨らむ一方でした。 さて、今回の訪問はヴェネチアン・グラスの鑑賞が目的。食事の予定の無い私が入店してよいのか少し不安でしたが、フロントの方はほかのお客様と分け隔てなくにこやかに案内してくださり、そのホスピタリティも感動ものです。

さて、本題の「彩のガラスたち 魅惑の世界」!

フロント横に設けられた特選ギャラリーには、さまざまなスタイルの優美なガラス作品がずらり。本展では主に、ヴェネチアン・グラスの3大技法とされる「ミルフィオリ」「レースガラス」「ハンドワーク」が展示されています。 なかでも、個人的に印象深かったのが「レースガラス」。

ヴェネチア発祥という説があるレースの編み物(諸説あり)。これに着想を得て編み出されたレースガラスは、かつての王侯貴族がこぞって買い集めた、ヴェネチアンガラスの代名詞です。

今回展示されているレースガラスは、1400年代から脈々と技術を継承し、ヴェネチア共和国より貴族の称号を下賜された名工「バラリン工房」の作品。繊細なレース模様と優美な姿のガラスは、レースの折り重なる白いドレスを纏った貴婦人を思わせる、なんともいえない高潔さを放っていました。この技術を編み出した職人、それらを継承してきた職人へ、心から敬意を表したくなる、そんな作品たち。すっかり魅了されてしまいました。 じつは後継者不足により、バラリン工房は2020年に閉鎖。現存する作品は今後価値が上がっていくかもしれません。

期間中は〈箱根ガラスの森美術館〉のスタッフが在廊し、さまざまな話を伺うことができます。なかでも興味深かったのは、ヴェネチアン・グラスの発展にまつわる歴史的背景の話でした。

ヴェネチア共和国というひとつの国家が形成されていた時代、ガラス産業のさらなる発展と、高度な技術の流出を防ぐため、ヴェネチア本島の北東に位置する「ムラーノ島」という小さな島に、ガラス製造にかかわる人々を強制移住させ、幽閉。「島外に脱出する者には死罪を課す」という厳しい法令をしいたといいます。国家繁栄のためとはいえ、なんとも自由度のない、窮屈な掟……。死を覚悟して逃げ出す職人もいたのだとか。

一方で、小豆島ほどの小さな島のなかに工房が密集したことで、それぞれの匠が切磋琢磨し、高度なガラス工芸技法が確立され、世界に名を馳せる地域ブランドが生まれたのも事実です。

ちなみに、潟(かた)の上に築かれたヴェネチア。そんな場所にガラスの原料となる珪砂やソーダ石灰があるとは思えませんよね。なぜ、水の都でガラス製造が盛んになったのか? そんな歴史的背景も、スタッフの方が教えてくださいます。

作品が展示されている特選ギャラリーの一画には、日本庭園を眺める目的で設えられた三つの間があり、ここにヴェネチアン・グラス作品が多く展示されています。

意匠のある建具を取り入れた趣きのある書院造の間と、ガラス襖から覗く日本庭園。そこに西洋の優美なガラス作品が並ぶさまは、かつて南蛮貿易で栄えた商人の邸宅や貴賓室はこんなふうだったのではないか……と想像を巡らせたくなる趣きです。 かつての江戸の町は、網目のように水路が巡らされ「東洋のヴェネチア」と呼ばれていました。そんな共通点にも思いを馳せながら、ヴェネチアン・グラスの輝きと、古きよき日本の風情、こだわりを貫くうかいのお料理、スタッフの心づくしのホスピタリティに酔いしれてみてはいかがでしょうか。

《Information》

「彩のガラスたち 魅惑の世界 ―江戸に華やぐヴェネチアの『粋』―」

場所:東京 芝 とうふ屋うかい(東京都港区芝公園4-4-13)

会期:2022年12月20日(火)~2023年3月26日(日)

営業時間:平日 11:45~15:00(14:30 L.O.)|17:00~22:00(19:00 L.O.)

     土日祝 11:00~22:00(19:00 L.O.)

TEL:03-3436-1028 リンク:東京 芝 とうふ屋うかい 公式サイト

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【国宝の絵画「十六羅漢像」とは】

こんにちは!《美術品・骨董品専門のオークションサイト》サムライオークションスタッフの利休です。

国宝「十六羅漢像(じゅうろくらかんぞう)」をご存じでしょうか?

羅漢とは、仏教において修行を完成させた聖者のことを指します。羅漢の中でも、十六羅漢と呼ばれる16人は釈迦が亡くなった後もこの世に長くとどまるとされて、仏教を守り人々に広めることを託された特別な存在の人たちのことを指します。

十六羅漢像は、この羅漢を描いた作品にあたります。滋賀県大津市の聖衆来迎寺旧蔵のもので、現存する中では最古の十六羅漢像となります。

羅漢をはじめとした人物の表情は他の作品よりも穏やかに捉えられていて、たくさんの色を使用して明るめにまとめられているのが特徴的です。実は、この作品は絹に描かれているのですが、絹の裏から色を塗る技法が取られていて、裏からの絹目を通して見えることによって穏やかな色調となり、柔らかな肌の質感なども表現されているということです。

このような明るく柔らかい雰囲気の表現が11世紀における日本仏画全体の特徴ともいえるのです。 東京国立博物館で開催された「国宝展」で唯一絵画で全期間掲示されました。機会があればぜひお目にかかることをおすすめします。

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