蔦重がプロデュースした二大絵師の競演!『夢みる!歌麿、謎めく?写楽』展

江戸時代に活躍した版元「蔦屋重三郎」の波乱万丈なる人生や、当時のメディア産業にまつわる人・モノ・コトに焦点を当てたNHKの歴史ドラマを毎週楽しみにしている方も多いのでは? かく言う筆者もその一人です。

現在、浮世絵コレクションや、絵師を取り上げた展覧会が日本各地の美術館にてさまざまに開催されています。東京・三田にある大学ミュージアム〈慶應義塾ミュージアム・コモンズ〉でも、『夢みる!歌麿、謎めく?写楽—江戸のセンセーション』が2025年6月3日からスタートしました。

本展は、慶應義塾の塾長(代理)高橋誠一郎氏の浮世絵コレクションから、蔦重がプロデュースしたことで知られる「喜多川歌麿」と「東洲斎写楽」を中心に、江戸時代の名絵師による浮世絵作品約100点を一挙に並べた展覧会。観覧料は“無料”ながらも、見応えのある内容となっています。

歌麿の画業を辿る「Room1」

展示室「Room1」は、喜多川歌麿の画業を辿りつつ、鳥居清長、鳥文斎栄之といった当時の美人画絵師たちの競演が楽しめる内容に。さらに展示作品のなかには、ドラマでも描かれていた、蔦重が手がけた画期的で新しい吉原のガイドブック『吉原細見』の実物も!

寛政6年(1794年)春序刊『新吉原細見』/山東京伝序。赤矢印で示された所には「つたや(徒多や)本屋」と書かれています

さて、本展示室の主人公・歌麿について。彼の人気に火がついたのは、理想美を追及した美人の半身像「美人大首絵」を描いたこと。その発案は歌麿または蔦重によるものと考えられているようです。「美人画の第一人者」として高名を得た歌麿は、その後遊郭美人画にとどまらず、母子絵をテーマにした錦絵などにも着手。

展示を見ていると、少しネタバレ的な情報も含まれますが、それらがドラマでどのように描かれていくのかを想像しながら観覧するのも楽しいかもしれません。

歌麿による大判錦絵「美人大首絵」
美人画の新たな表現に挑んだ、歌麿の《教訓親の目鑑》シリーズの展示も。親の視点から娘に訓戒を与える詞書と、酩酊したり、ごろんと寝転がって本を読んだりする娘たちの大らかな姿のギャップがおもしろい

写楽をひも解く「Room2」

続いて「Room2」は、謎多き浮世絵師・東洲斎写楽の貴重な作品や、鳥居派、勝川派などが手がけた「役者絵」が展示されています。

「Room2」の館内

写楽といえば、その正体は誰なのか長年議論されてきた絵師。現在は阿波藩に仕えた能役者・斎藤十郎兵衛だとされています。

わし鼻、うけ口、皺など、顔の特徴を誇張することで役者の個性が大胆に表出した写楽の役者大首絵。それらを売り出したのが、版元・蔦屋重三郎です。従来の美化された似顔絵とは一線を画した、異端の画風が世間を驚かせたといいます。ところがすぐに人気は下火となり、写楽はわずか10カ月ほどでその姿を消したのだそう。

写楽による大判錦絵

写楽が登場する以前の役者絵は、顔が個々に描き分けられておらず、衣装や傍書をヒントに役者や役名を推理していたそう。それが写楽の錦絵をきっかけに、勝川春章らが個人の風貌を落とし込んだ似顔絵を導入。役者絵の大きな刷新につながり、大衆からも支持を得ました。

勝川春章による中判錦絵。それぞれの顔の特徴が描き分けられています。《初代中村仲蔵の三河や義平治と二代目中村助五郎の団七九郎兵衛》(明和5年(1768年))

このように、似顔絵に新風を巻き起こしたのが写楽の大偉業であり、その絵を売り出そうとした蔦重の着眼点も、まさに「そうきたか~!」と思えるポイント。ドラマでは写楽を誰が演じるのかも、ぜひ注目したいところです。

7月2日(水)には前期の展示が終了し、7月7日(月)から後期がスタートします。ほとんどの作品が入れ替わるとのことなので、ぜひ前後期で楽しんでみてはいかがでしょうか。

Information

夢みる!歌麿、謎めく?写楽—江戸のセンセーション

会期:2025年6月3日(火)~8月6日(水)

   【前期】6月3日(火)~7月2日(水)【後期】7月7日(月)~8月6日(水)

会場:慶應義塾ミュージアム・コモンズ(東京都港区三田2-15-45 慶應義塾大学三田キャンパス東別館)

開館時間:11時〜18時

休館日:土・日曜(但し6/21、7/12、8/2は開館)、6/23(月)、7/3(木)、7/4(金)

入館料:無料

リンク:慶應義塾ミュージアム・コモンズ