【「越後屋」を興した三井家の、創業期の事業や茶道具をたどる展覧会〈三井記念美術館〉にて8月末まで】

江戸時代において「現金掛け値なし」という革新的な商法を打ち出したことで知られる呉服店〈越後屋〉。ご存じの通り、現在の〈三越〉や〈三井財閥〉の源流となった店(たな)です。

三井グループが350周年を迎える2023年、東京都日本橋にある〈三井記念美術館〉では、越後屋開業350年記念特別展『三井高利と越後屋 ー三井家創業期の事業と文化ー』が開催されています。

1673年に〈越後屋〉を開業した三井高利と、その子どもたちによる創業期を、社会経済史資料をもとにわかりやすくたどる本展。店で使われていた帳簿や商売道具に加え、三井家の人々が道楽として蒐集してきた名物茶道具なども展示されています。

それにしても、350年も廃れることなく家業が続くというのは、並大抵のことではありません。やはり創業者である三井高利の考え方にヒントがあるはず! 名品の鑑賞を楽しみつつ、三井家のビジネスに向き合う心構えなどにも注目し、展覧会を楽しんできました。

■越後屋のビジネスの心構えとは? 時代劇で見るような商売道具もずらり

ところで、タイトル画像の分厚い帳簿は「大福帳」と呼ばれるもの。こちらは大坂で両替店を商っていた〈三井両替店〉の総勘定元帳にあたる帳簿です。半年に1冊作成され、現存数は160冊にも及ぶのだとか。この分厚さ、必要な情報に辿り着くにも骨が折れそう……。

金・銀・銭の3貨が流通していた江戸時代。金・銀の重さを量るために使われていた天秤や分銅も展示されていました。

そして、1832年(天保3年)に制作された〈越後屋〉江戸本店の立体模型「江戸本店本普請絵図面」も!

現代も著名な建築家が設計する建造物には模型がつくられることが多々ありますが、江戸時代にもこのようなものがつくられていたんですね。同じ江戸本店の内部を描いた「浮絵駿河町呉服屋図」と併せて見れば、店内の様子がよりリアルに感じられます。

ここまでユニークな展示物を取り上げましたが、ほかにも〈越後屋〉を興した高利や、その子どもたちによるビジネスの心構えなどを記した資料なども多く展示されています。

現在も“三井グループのこころ”として受け継がれる『宗竺遺書(そうちくいしょ)』。これは、高利が事業発展・繁栄保持のために残した言葉を、長男・高平がまとめて製本した三井家の“家憲”。財産相続の考え方、一族の協力体制、「同族の子弟は丁稚奉公の仕事から見習わせ、習熟するように教育しなければならない」などが説かれ、三井家を語るうえで重要な資料として展示されています。

さらに、奉公人が綴った事業に関するメモ書きも。三井家を支える当事者としての自覚と勤勉さが垣間見えるようでした。

そのような有能な奉公人を選ぶ目を持ち、育てた、高利。事業繁栄のヒントは、一族や奉公人などと分け隔てなく、三井家の事業にかかわる者としての意識を強く持つための教育にあったのではないか、と感じました。

そして、これらの資料を見ていて高利に抱いたイメージは、事業を大成功させ、莫大な富を得つつも、つとめて倹約家であり、謙虚であり、人々の声を聞く柔軟さを持ち合わせており、そして限りなくリアリストである姿。もし今の時代に生を受けているとしたら、高利はどんな事業を興すでしょうか。

■あの名物茶道具も! 信仰を寄せた商売繁盛の神様とは?

元文年間の幕府の貨幣改鋳を機に、営業利益が江戸期最大に延びた三井家。そんなタイミングもあって文化面への支出が顕著になり、特に茶道具蒐集が盛んだったといいます。

本展では、重要文化財であり大名物の「唐物肩衝茶入 北野肩衝」、樂家三代道入(通称ノンコウ)作であり、高利が一族の椀飯振舞いの席で濃茶を点てたという「赤楽茶碗(銘再来)」も並びます。

さらには、茶人としても名高い古田織部が所有していた「大井戸茶碗 十文字」も。器をわざと壊して継ぎ合わせ、そこに生じる美を楽しんだという織部が、大井戸茶碗を十文字に割って継ぎ合わせた、大胆でユーモラスな逸品。織部を主人公とした漫画『へうげもの』(山田芳裕作・講談社)の愛読者なら「これが……!」と、ニンマリしてしまうはず。

また、神仏への信仰が厚く、特に商売繁盛の神「大黒天」「恵比寿」を祀っていたという三井家。高利が亡くなった際に一族に分配された御形見箱には、尾形光琳による大黒天が描かれています。また、三井家3代目である高房直筆による大黒天や恵比寿の軸も。

〈越後屋〉の起こりからその繁栄、そこから発展した道楽や信仰まで、三井家創業期のさまざまな面を鑑賞できる本展。古物好きにも、ビジネスパーソンにも楽しめる内容です。そして美術館が入る三井本館は、重要文化財に指定されている重厚な洋風建築。美術館内には、織田有楽斎(織田信長の実弟)が京都・建仁寺境内に1618年頃に建て、現在国宝に指定されている茶室「如庵」も再現されています。建築ファンもぜひ訪れてみては?

Information

越後屋開業350年記念特別展

三井高利と越後屋―三井家創業期の事業と文化―

会場:三井記念美術館(東京都中央区日本橋室町2-1-1三井本館 7階)

会期:2023年6月28日(水)〜8月31日(木)

休館日:月曜(7月17日、8月14日は開館)

入館料:一般1000円/大学・高校生500円/中学生以下無料

問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)

リンク:三井記念美術館

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【サムライのおしゃれに“隙”なし!武家文化で育まれた美意識やこだわりを見るコレクション展】

東京・丸の内にある〈静嘉堂文庫美術館〉では、2023年7月30日(日)まで『サムライのおしゃれ ―印籠・刀装具・風俗画―』と題した展覧会が開催されています。

三菱財閥を興した岩崎家が収集した膨大なる古美術コレクションの中から、武家文化の日常生活のなかで育まれたサムライの美しい装身具、工芸品、風俗画などを精選して展示。国宝や重要文化財をふくめた珠玉の品が並ぶほか、「サムライのおしゃれ」というユニークなテーマでも話題を呼んでいます。

サムライたちは日々どのようなおしゃれを楽しんでいたのでしょうか? 粋なファッションに触れるべく、お邪魔してきました。

■第1章 サムライのおしゃれ

4つの章に分かれている本展。まず第1章の展示ルームに足を踏み入れると、明治初期に複製された『蒙古襲来絵巻 摸本 巻二』が展示されています。

鎌倉時代に起こったモンゴル帝国による日本侵攻。その際の、筑前国・生の松原に築かれた石築地の前を進む竹崎季長(たけさき・すえなが)の一党が描かれた絵巻です。

武士集団が身につけている甲冑は色とりどり。特に季長の甲冑は威風堂々たる朱の武具で、馬の鞍にはなんと「虎の毛皮」が敷かれています。トップに立つ者は、自身の甲冑だけでなく馬の装具にも余念がないのですね。

また同章では、武士であり、政治家・実業家としても知られる後藤象二郎が、英国ヴィクトリア女王から拝領した「サーベル」も初公開されています。

1868年に明治天皇に謁見予定の英国公使ハリー・パークスらは、2人の攘夷派志士に襲撃を受けますが、護衛を担当した土佐藩士・後藤象二郎と、薩摩藩士・中井弘は、志士らを討ち取ります。その感謝の印として英国から贈られたのがこのサーベルです。

長年行方不明とされていましたが、近年静嘉堂内で発見。刀身の中央には後藤象二郎の名前と、事件の日付も刻まれています。

■第2章 将軍・大名が好んだ印籠

岩崎弥之助がコレクションした印籠40点がずらりと並ぶ第2章。四季の自然、花鳥風月、故事人物などのモチーフを、蒔絵、彫金、螺鈿、象牙、奇石、堆朱などによって精緻に盛り込んだ印籠は溜息ものでした。

印籠に付随する根付との組み合わせによる世界感も見ものです。風流なもの、滑稽でおかしみのあるもの……きっとそのコーディネートにもサムライの“粋”が問われたのでしょう。

大名や将軍、さらには天皇まで蒐集を楽しんだという印籠。お抱えの印籠蒔絵師までいたというから、相当な熱の入れようです。

ちなみに、印籠のそもそもの目的は「常備薬を入れるケース」。一見すればなんてことない小物ですが、いつしかおしゃれを競い合うおしゃれ必需品へ変化したという、ものの価値の変容にも不思議なおもしろさを感じた章でした。

■あの『曜変天目』の展示も! 国宝や重要文化財も楽しめる第3・4章

さまざまな衣装をまとった市井の人々が行きかう『四条河原遊楽図屏風』が展示されている第3章。この二曲一双には、ファッションリーダーであった歌舞伎者、大小の拵(こしらえ)を下げる武士、踊る遊女たち、若衆など、280人前後が描かれているといいます。眺めていると、人々のざわめきが聞こえてくるよう。

第4章では、重要文化財の『羯鼓催花紅葉賀図密陀絵屏風』や、世界に3椀しか存在しないという国宝『曜変天目』、岩崎弥之助がロンドンを訪問した際に購入したという『銀懐中時計』などの展示も。

今回の展示で感じたのは、サムライのおしゃれに“隙”なし、ということ。服装、髪型、拵、小物など、細部の細部までコーディネートに余念がない武士たちのこだわりを見せつけられました。

ちょっとユニークなテーマの本展、ぜひ足を運んでみては?

Information

『サムライのおしゃれ ―印籠・刀装具・風俗画―』

会場:静嘉堂文庫美術館(東京都千代田区丸の内2-1-1 明治生命館1F)

会期:2023年6月17日(土)~7月30日(日)

休館日:月曜日、7月18日(火)(7月17日(祝)は開館)

開館時間:10時~17時(入館は16時30分まで)、金曜は18時(入館は17時30分)まで

観覧料:一般1500円、大高生1000円、障がい者手帳をお持ちの方(同伴者1名〈無料〉を含む)700円、中学生以下 無料 TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)

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