【翡翠の超絶技巧に眼福!深淵なる中国美術の世界『アメイジング・チャイナ』】

日本文化として広く伝わり、受け継がれているものでも、その源をたどれば中国に行き着くものが多々あります。「中国数千年の歴史」とは中国の歴史の深さを語る代名詞のような言葉ですが、中国美術においても、卓越した画力や技巧、緻密で複雑な造形、素材を最大限に引き出す眼力など、その言葉の意味を目の当たりにすることが多いと感じています。

現在、東京都港区にある〈松岡美術館〉では、『アメイジング・チャイナ 深淵なる中国美術の世界』と題した展覧会が開催中です。約1500年前とされる北斉時代から唐時代の金剛仏、明から清時代の漆器、陶磁器、玉器、絵画作品が展示されています。

なかでも、本展の目玉である翡翠を緻密に彫刻した『翡翠白菜形花瓶』は、パンフレットからもその超絶技巧が伝わり、ぜひ実物を見てみたいと美術館を訪ねました。

美しくも厳かな清玩がずらりと並ぶ展示室内。どのような至極の逸品に出会えるか、期待が膨らみます!

鑑賞順に従って進むと、まず目に入るのは手のひらに収まりそうなほどの金剛仏たち。北斉~唐時代に手がけられたという繊細で華奢な像を前に、このような良好な状態で1500年もの年月を持ちこたえたとは……と感動を覚えます。

同館の創設者である松岡清次郎氏は、美術館開設以前に中国美術と出会い、生涯にわたりそれらの名品を追い求めてきたのだそう。

続いて、明〜清時代に制作された大振りな堆朱が並びます。龍の鱗、荒波の一筋一筋まで丁寧に掘られた『龍波濤文堆朱合子』には、“五本指”を持つ龍が。これは皇帝のみに許されたデザインとされています。彫りの技術も、漆を扱う技術も、一流の工人によって制作されたのでしょう。時代を経ても歪みなどほとんど見られません。清時代の皇帝は、この合子をどこに飾り、どのように使っていたのでしょうか。想像が掻き立てられます!

さらに、明〜清時代に制作された景徳鎮窯の文鉢、瓶、文盤、扁壺も。下の写真の『青花胭脂紅双鳳文扁壺』(左)『紅地粉彩花卉文扁壺』(右)には「大清乾隆年製」銘が。これは皇室専用の官窯で制作されたことの証。さまざまな吉祥紋と鮮やかな色彩がとにかく美しい……。

そして、本展で楽しみにしていた『翡翠白菜形花瓶』。意外と大きい! 高さ26.7cmとのことで、ほぼ実物大といってもいいかもしれません。

淡い緑と橙が織り交ざり、そのグラデーションを最大限に生かした彫刻がなされているように感じました。それにしてもイナゴやキリギリスの彫刻のなんと繊細なこと……!

翡翠彫刻作品は他にも。表面には花鳥風月、裏面には宮廷の様子が緻密に彫られた『翡翠楼閣花鳥図挿屏』も見事です。

清の第6代皇帝である乾隆帝の時代、清の支配がミャンマー近くまで拡大し、良質な翡翠が大量にもたらされ、さまざまな翡翠彫刻品が制作されるようになったのだとか。このような時代的背景によって発展した芸術品なのですね。

また本展では、歴代の中国絵画の形式として重要な役割を果たしたという「画冊・画巻」もさまざまに展示されています。今回展示されている明清絵画は、東京大学の東洋文化研究所教授・板倉聖哲氏の調査・監修のもと、選りすぐられた作品なのだとか。

なかでも美しいと感じたのが、花鳥図を得意とした呂紀(1488~1505年)による《薔薇図巻》。花びらは鮮やかに生き生きと描かれ、葉、棘の細部までとにかくリアルを突き詰めた描写力。まるでバラの芳香が匂い立ってくるようでした。

明時代の絵画を語るうえでは「浙派」と「呉派」が存在していたそうで、それぞれの流派ごとの作品が展示され、詳しい解説が用意されています。

今回の展示のなかで強く感じたのは、同館の中国美術への造詣の深さ。それらの作品が、いつ、なぜ、どのようにしてつくられることになったのか、歴史や背景なども展示品に添えられているキャプションにつづられています。さらに、中国略年表、中国歴代窯址略図なども展示されており、日本のいつの時代にこれらの作品がつくられたのかなど、わかりやすい展示になっていました。

中国美術に関心がある方や、より造詣を深めたいという方には、さまざまな発見がある展覧会となるかもしれません。展示は2024年2月11日(日・祝)まで。

Information

アメイジング・チャイナ ―深淵なる中国美術の世界―

会期:【前期】2023年10月24日(火)~12月10日(日)

   【後期】2023年12月12日(火)~2024年2月11日(日・祝)

会場:松岡美術館(東京都港区白金台5‐12‐6)

開館時間:10時~17時(入館は16時30分まで)

     第1金曜 10時~19時(入館は18時30分まで)

休館日:月曜、2023年12月29日(金)~2024年1月4日(木)

観覧料:一般1200円、25歳以下500円

高校生以下、障害者手帳をお持ちの方は無料

リンク:松岡美術館 公式サイト

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