関東ではすっかり桜の花が散り、新緑の季節らしい風景が広がってきています。東北や北海道辺りではまだ桜が楽しめる頃でしょうか。
ほんのわずかな期間のお楽しみである桜の開花。「満開の桜をじっくり楽しむ時間が持てなかった」という方や、名残惜しさで「もっと桜を楽しみたかった」という方もいるのでは?
そんな方に朗報です。東京都目黒にある〈郷さくら美術館〉では、桜を主題とした展覧会『第10回 郷さくら美術館 桜花賞展』が、2023年5月14日(日)まで開催されています。
本展は、今後の活躍が期待される日本画家30名に「桜」をテーマにした作品の制作を依頼し、それらを一同に展示するコンペティション形式の展覧会。作品のなかから大賞、優秀賞、奨励賞が選出されています。
さらに、同館が所蔵する高名な日本画家の桜屏風9点を展示した『桜百景vol.30』も同時開催。併せて39点もの見ごたえたっぷりの桜作品が並び、改めて「お花見」を楽しむような内容になっています。
本展は3フロアに分けて展示が行われており、1階には『桜百景vol.30』の9作品が。 入館してすぐ目に飛び込んできたのは、日本画家・中島千波さんの大作『櫻雲の目黒川』。四曲一隻の屏風いっぱいに満開の桜が描かれています。
目黒川にかかる橋の欄干の緋、川の両側に植栽された緑、晴天の青、どこまでも続くような奥行のある桜色のグラデーション。作品に近づいてみると、岩絵具で描かれる花びら一枚一枚の玻璃のような透明感が、まるで本物の花びらのよう。日本画ならではの繊細な奥ゆかしさに小さな感動を覚えました。また、桜というモチーフを日本画で描くことの意義を、この作品に見た気がしました。
続いて、福島県の「三春滝桜」をモチーフにした、牧進さん、平松礼二さん、林潤一さんの大屏風3点が並び、その迫力たるや! 今まさに満開の桜に立ち合えているような感動をもたらしてくれます。
ほかにも日本画壇を代表する画家の作品が1階を埋め尽くし、もうこのフロアだけでもかなり心満たされる思いです。
さて、2~3階には、本企画の大テーマである「桜花賞展」の作品が並びます。
満開の夜桜をダイナミックに描く人、薄曇りに咲く桜を淡く儚く境界線も曖昧に描く人、葉桜に美しさを見出す人、神話にインスピレーションを得た桜の画を描く人、歌舞伎座に舞う桜吹雪を描く人――そこに並ぶ作品は、雰囲気も、技法も、解釈もさまざま。
今回のコンペティションで大賞を受賞したのは、1997年生まれ・滋賀県出身の工藤彩さん。『桜の間』と名づけられた作品のモチーフは、枝をしならせるような満開の桜ではなく、太い幹にひっそりと顔をのぞかせる数輪の花。
樹齢を重ねた古木でしょうか。ごつごつとした老齢の木肌に芽吹いた新しい命。苔や蔦などのさまざまな生き物たちの共生の場。見上げてばかりの人の目には映らない、静寂のなかのたくましい生は、美しい“詩”のように感じ、心打たれました。
どれも魅力的な作品ばかりですが、個人的にすてきだなと感じた作品はこちら。明壁美幸さんの『よろこびが咲き渡る』です。
福島県白河市の南湖公園にあるベニシダレを描いたという作品。薄曇りのある日、いつもよりも少し温まった風に春の到来を肌身で感じる。そんな喜びをこの作品で思い返し、見ているだけでワクワクした気持ちになりました。
また、小俣花名さんの『旅立ちの日』は、中学生の頃に亡くなった父との記憶を描いた作品。手毬のようにポンポンと咲く桜や、幼い頃の体験や思い出が曼荼羅のような緻密さで描かれ、ほかの作品とは違った趣きのユニークさが印象的でした。
さまざまな角度から、さまざまな構図で、それぞれの思いを託し、描かれた30の桜作品。日本人にとっての桜の重要性、必要性などを改めて思うような、そんな展覧会でした。
今回の展覧会を行う〈郷さくら美術館〉は、昭和以降の生まれの日本画家の作品を中心にコレクションし、現代日本画の魅力に触れる場として設立された美術館です。活躍中の日本画家の支援、新たな才能の発掘・育成にも取り組んでいます。
今回の『桜花賞展』以外にも、毎回テーマを設けたコレクション展が年に4・5回開催されています。同館が誇る珠玉の日本画コレクションを目にし、心豊かな時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。
Information
第10回 郷さくら美術館 桜花賞展
場所:郷さくら美術館(東京都目黒区上目黒1-7-13)
会期:2023年3月7日(火)~5月14日(日)
開館時間:10時~17時(最終入館16時30分)
休館日:月曜
TEL:03-3496-1771
サイト:「郷さくら美術館」HPはこちら。
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