好古と考古、神話と戦争……「ハニワ」や「土偶」の社会的側面を知る展覧会『ハニワと土偶の近代』12月22日まで

「ハニワ」や「土偶」と聞いて、まず思い浮かべるのはどんなものでしょうか。子どもの頃に教科書で見た人や馬型の人形でしょうか。はたまた、美術専門誌の一面、観光で訪れた遺跡、もしくは子どもと一緒に見たNHKの教育番組、という方もいるかもしれません。

3世紀後半頃から制作されていたというハニワや土偶は、近代の日本の節目においてさまざまな受容体となり、象徴となり、キャラクターにされてきました。その変遷に触れる展覧会が〈東京国立近代美術館〉にて開催されています。その名も『ハニワと土偶の近代』。

ちなみに、古代に制作されたハニワ等は基本的に展示されていません。でも、“昭和生まれの人”には懐かしく感じられる展示品ばかりかも……⁉

日常に深く浸透している「ハニワ」という存在

序章「好古と考古 ―愛好か、学問か?」、1章「日本を掘りおこす ―神話と戦争と」、2章「伝統を掘りおこす ―“縄文”か“弥生”か」、3章「ほりだしにもどる ―となりの遺物」と4つの章で展開する本展。それぞれで印象深かった作品やエピソードをご紹介します。

序章では、1870年代~1900年初頭という“近代への入口付近”でのハニワへのまなざしにフォーカス。古物を愛する「好古」と、明治初頭に海外からもたらされた「考古」という2つの「こうこ」の比較を取り上げています。

展示のなかで目を引いたのは、放浪の画人として知られる蓑虫山人の《埴輪群像図》や《陸奥全国古陶之図》。遺物蒐集家であり、遺跡の発掘調査も手がけるなど学術的(考古)な視点を持っていた蓑虫。一方で描いた絵は、どちらかといえば「好古」のまなざしです。

蓑虫山人《陸奥全国古陶之図》。自ら集めた土器や土偶と中国風の調度品を文人画風にレイアウトした軸絵。

蓑虫山人《陸奥全国古陶之図》。自ら集めた土器や土偶と中国風の調度品を文人画風にレイアウトした軸絵。

さらに、五姓田義松によるハニワのスケッチは素焼きの質感や細部の陰影までも克明に表現され、「考古」といった印象。「好古」か「考古」か。同じものを異なる視点でとらえることで、どのようなものが見えてくるでしょうか。

続く1章では、ハニワ等の遺物が「万世一系」を示す特別な存在として認められ、戦争時には「子を背負った母のハニワは、あたかも涙を流さず悲しみをこらえる表情のよう」と、“理想的な日本人”の象徴として戦意高揚や軍国教育にも使役されてきた歴史にフォーカスしていきます。

神武天皇即位2600年を迎えた1940年には、建国神話を人々の生活に浸透させるため、ハニワ特集が組まれたり、さまざまな特別グッズが発行されたそう。左の後藤清一による乾漆の像《玉》は、「国風の精華を讃するもの、戦意高揚に資するもの」という課題のなかで制作され、戦時特別文展(1944年)に出品された作品。

神武天皇即位2600年を迎えた1940年には、建国神話を人々の生活に浸透させるため、ハニワ特集が組まれたり、さまざまな特別グッズが発行されたそう。左の後藤清一による乾漆の像《玉》は、「国風の精華を讃するもの、戦意高揚に資するもの」という課題のなかで制作され、戦時特別文展(1944年)に出品された作品。

戦中、国粋主義の象徴となっていたハニワですが、じつは自由を求める前衛主義のモダニストたちにも愛されていたという驚くべき事実も。社会情勢に圧され、自由な表現が許されなかった戦時中の画家たちは、国家自体が率先して使っていたハニワを前衛アートのモチーフとすることで、厳しい統制をすり抜けることができたのだとか。

対局にある観念のなかで、同じモチーフに依存する。なかなか皮肉な話で、とても印象深いエピソードでした。

岡本太郎の《顔》。前衛いけばなの花器として構想された作品。実際に岡本が花を活けた写真なども会場に展示されています。

岡本太郎の《顔》。前衛いけばなの花器として構想された作品。実際に岡本が花を活けた写真なども会場に展示されています。

2章では、戦後の日本で起こった、ハニワを巡るムーヴメント的事象をさまざまに取り上げています。

「万世一系」という皇国史観の脱却を喫緊の課題とした戦後の日本。インターナショナリズムへと梯子を架け替えるなかで、ハニワを巡る新たな論争も次々と勃発していったようです。そのひとつが岡本太郎による「縄文か、弥生か?」という伝統論争。ほかにも出土遺物の美的な価値を発見したイサム・ノグチのエピソードなど、多角的な視点の展示が展開されています。

最後となる3章では、オカルト、SF、特撮、マンガなど、新たな形で大衆へと浸透していく1960年代以降のハニワが紹介されています。NHKの教育番組で人気を博した「おーい!はに丸」に関する情報も。それらを眺めて「懐かしいなあ」と思いつつ、古代の日本文化が現在の暮らしに深々と溶け込んでいること、それらを違和感なく受け入れている自身の無自覚を実感するかもしれません。

その素朴で静かなる姿からは想像できないほど、歴史の大きな動きのなかで翻弄され続けてきたハニワ。この遺物を取り巻く歴史的背景に終始驚くばかりの展覧会でした。ぜひ会場を訪れてみてはいかがでしょうか。

また、上野の〈東京国立博物館〉では、ハニワや土偶がズラリと並ぶ特別展『挂甲の武人 国宝指定50周年記念 特別展「はにわ」』も開催されています。『ハニワと土偶の近代』を観たあとなら、また違った視点でハニワと向き合えるかもしれません。

Information

ハニワと土偶の近代

会期:2024年10月1日(火)~12月22日(日)

会場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー(東京都千代田区北の丸公園3‐1)

開館時間:10時~17時 (金・土曜は10時~20時、入館は閉館の30分前まで)

休館日:月曜 (ただし11月4日は開館)、11月5日(火)

観覧料:一般1800円、大学生1200円、高校生700園、中学生以下と障害者手帳をご提示の方と、その付添者(1名)は無料

お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)

リンク:東京国立近代美術館サイト