『エミール・ガレ:憧憬のパリ』展で見る、ガレのジャポニスム

東京・六本木にある〈サントリー美術館〉では、2025年4月13日(日)まで『没後120年 エミール・ガレ:憧憬のパリ』展が開催されています。

日本でも根強い人気のガレ作品。これまでも各美術館が収蔵するコレクションにて、さまざまなテーマや解釈による展覧会が開催されてきました。昨年春の〈渋谷区立松濤美術館〉での『エミール・ガレ展 奇想のガラス作家』も記憶に新しいところ。

今回の〈サントリー美術館〉での展覧会は、ビジネスの拠点や発信地となり、創作にも大きな影響を与え、ガレの地位を築いてきた“パリ”との関係に焦点を当てた展覧会となっています。

同館が所有する膨大なコレクションを中心に、多様な姿のガラス・陶磁器作品が展示されているなかで、ジャポニスム様式の作品が割と多く、強い存在感を放っていました。本コラムでは、本展のテーマからはちょっと逸れつつも、日本を感じるガレ作品を多く取り上げたいと思います!

ガレのジャポニスム

1867年のパリ万博にて、日本は初となる公式参加を果たしました。それ以降、フランスで大きく開花したのがジャポニスム(日本への関心・愛好・趣味)。日本という国へのイメージが形成されていき、ガレ自身も日本への関心を高めていったようです。

まず、ガレの初期作品において、ジャポニスム様式の代表格といえるのがこちらの花器「鯉」。1877年に父から家業を引き継いだガレが初めて経営面・制作面で指揮をとり、1878年のパリ万博に出品したモデルのひとつだそう。

花器「鯉」1878年

『北斎漫画』13編中の「魚籃観世音」図からモチーフを転用したというデザイン。漫画では鯉の背に観世音が乗った姿で描かれていますが、ガレは優雅にうねる鯉のみを大胆に配置。ゴージャスな花を活けても、花器のデザインに目が行ってしまうようなダイナミックさと煌びやかさがあります。

続いては、備前焼の獅子頭を手本に制作した「日本の怪獣の頭」。タイトルが直球すぎるのもユニーク(笑)。

日本への関心を高めていったガレは、日本の作品もさまざまに収集していたそう。写真左側の備前焼「獅子頭形火入」は、医師であり陶工であった備前国の佐藤陶崖が制作したもの。こちらの類似品をガレは所有していたといいます。

【左】備前焼 獅子頭形火入 佐藤陶崖 19世紀【右】獅子頭「日本の怪獣の頭」1876‐84年頃

また、水差「昆虫」には萩や竹のなかに紛れ込んだ蝉らしき虫が蒔絵のように描かれています。ほかにも金彩やエナメル彩によるバッタやカマキリを配した丸皿や瓶なども展示。幼き頃から植物学にも親しんでいたというガレ。自然界の生き物への造詣の高さがこれらの作品からもうかがえます。

水差「昆虫」1880年頃
栓付瓶「草花」1867‐76年頃

そして下の写真は「蜻蛉」と題した鉢。この色や形状、茶の湯で用いられる茶器を想起せずにはいられません。

鉢「蜻蛉」1889年

床の間にあってもなんら違和感のない花器や、伊万里風装飾と呼ばれるデザインを口縁部に配した皿など、日本の工芸で用いられるモチーフや技法を熱心に研究していた様子がうかがえる作品が展示されていました。こうして並べてみると、日本で生まれた工芸品の展示……?という風にも思えてきます。

花器「アジサイ」1889年
皿「草花」1889-1900年頃

今回ご紹介したジャポニスム作品だけでなく、被せガラス、装飾挟み込み、エングレーヴィング、黒色ガラスといった、ガレらしい意匠の作品も多く展示。物語性や精神性が色濃く表れた作品には、引き込まれるものがあります。

ランプ「ひとよ茸」1902年頃

前述のとおり、さまざまな美術館で特別展が開催されるガレ。蒐集者が違えば、コレクションの様相も異なるもの。本展もガレとパリの関係性を紹介する展覧会ではあるものの、ジャポニスム様式の作品が多いのが印象的でした。ガレの展覧会に足を運ぶ際は、テーマだけでなく、各館の所蔵コレクションの特色なども楽しんでみてはいかがでしょうか。

Information

没後120年 エミール・ガレ:憧憬のパリ

会期:2025年2月15日(土)~4月13日(日)

会場:サントリー美術館(東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階)

開館時間:10時~18時(金曜日は10時~20時)

休館日:火曜

観覧料:一般 1700円、大学・高校生1000円、中学生以下無料、障害者手帳をお持ちの方は、ご本人と介助の方1名様のみ無料

音声ガイド:600円

リンク:サントリー美術館