【元首相・細川護熙さんが京都の寺院に奉納した襖絵を大公開!『京洛の四季』開催中】

第79代内閣総理大臣を務めた細川護熙(ほそかわ もりひろ)さんの展覧会『京洛の四季』が、東京都銀座にある〈ポーラ ミュージアム アネックス〉にて、2023年9月15日(金)~10月15日(日)の期間で開催されています。

政界引退後、陶芸、書画、油絵など、さまざまな創作活動に力を入れてきた細川さん。近年は大型の障壁画や襖絵の制作にも注力しており、奈良・薬師寺慈恩殿の『東と西の融合』や、京都・龍安寺の『雲龍図』などを手掛け、奉納されています。

今回の展覧会では、2014年に京都・建仁寺塔頭寺院正伝永源院へ奉納された『四季山水図襖絵』を大公開! さらに、細川さんご本人によるギャラリートークを交えたプレス向け内覧会が開催され、お邪魔してきました。

意外性のある画材と異文化をミックスさせた、新しい漆絵

会場に入り、まず目に飛び込んでくるのは、荷花(ハス)、ドクダミ、カキツバタ、ツワブキ、ヤマユリといった、古くから愛でられてきた路傍の草花や、カゲロウ、チョウ、トンボ、カタツムリなどが描かれた作品。

油彩用のカンヴァスに描かれているのですが、どうやら油絵の具ではない様子。キャプションを覗くと「漆、金、錫」とあり、既視感のある艶めく黒い画材が、漆の質感であることにようやく気づきました。

カンヴァスに漆。そして中国絵画の伝統的な画題「草虫図」に着想を得て描いたという草花や虫のモチーフ。和洋中さまざまな要素をミックスし、伝統的かつ新しい技法で描き出す細川さんの、とどまることのない創作意欲を目の当たりにしました。

京都各所の四季を描いた『四季山水図襖絵』

続く部屋に足を踏み入れた瞬間、感嘆の溜息が出るかもしれません。ギャラリー内の4面の壁それぞれに大迫力の襖絵が展示され、4作品をぐるりと見渡せるレイアウトになっています。

京都・東山の夜桜が月明りに浮かび上がる「知音(ちいん)」、鳥声だけが響く夏の北山「渓聲(けいせい)」、嵐山周辺の山々が紅葉に色づく「秋氣(しゅうき)」、雪に覆われた大文字山と東山の街並みが連なる「聴雪(ちょうせつ)」。寂然とした京都の四季を眺めているだけで、心が清められる思いです。

これらの『四季山水図襖絵』が描かれることになったのは、当時大型作品を描くアトリエを持っていなかった細川さんが、他寺院から依頼された襖絵の制作場所に困り、建仁寺に相談したことに始まったのだとか。

「当時の建仁寺ご住職に相談したところ、快くお引き受けいただいて。一室を拝借してしばらく襖絵を描いていましたら、ときどきご住職が見に来られて。『ぜひうちにも描いて欲しい』と仰るものですから、『これが終わったら描いてみましょう』と、こう申し上げたんです」(細川護熙さん)

制作の依頼を請けたのが春。南禅寺界隈を歩いているとき、見事な夜桜に遭遇したのだそう。東山に浮かぶ月と夜桜が対話している風景が思い浮かび、「知音」を描くことになったといいます。

「黒い襖は見たことがない」と心配したご住職だったようですが、完成した襖絵を前に「次もひとつ」とさらなる依頼が。そして、紅く色づき始めた嵐山、小倉山、愛宕山などを描いた「秋氣」を制作します。

その後、夏の北山にホトトギスの声がこだまする「渓聲」を描き、雪の降り積もる比叡山や大文字山、静まり返った東山市街や鴨川を描いた「聴雪」と、京洛の4つの季節を描いた24面が完成。

山水画とは、精神性や自然観などを添景した、いわば“創造された景色”であることも多々。細川さんもこれに乗っ取り、写生は行わず、イメージのなかの風景を『四季山水図襖絵』として形にされています。

とはいえ、京都を何度も訪ね、おおかたの地理を把握している細川さんが描いた山水画は、実際の位置関係と比べてもそれほど大きく違いません。

これら襖絵24面すべてを鑑賞できる本展。建仁寺塔頭寺院正伝永源院でも季節ごとに襖絵を入れ替えており、寺院外での展示も10年振りとのこと。

『四季山水図襖絵』を一度に目にする機会はそうありません。お見逃しなく!

Information

細川護熙展『京洛の四季』

会期:2023年9月15日(金)~10月15日(日)

時間:11時~19時(入場は18時30分まで)

入場無料

TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)

リンク:ポーラ ミュージアム アネックス 公式サイト

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【時代も次元も超えた、真夏の白昼夢!〈目黒雅叙園〉の百段階段で“百鬼夜行”の旅】

「昭和の竜宮城」と称された〈目黒雅叙園〉。1935(昭和10)年に建てられ、今なお残る木造建築は、昔と変わらない絢爛さで来場者に大きな驚きと感動をもたらしてくれます。

現在〈ホテル雅叙園東京〉と名称変更された同ホテルでは、今や夏の風物詩となりつつある企画展『和のあかり × 百段階段』が2023年9月24日(日)まで開催されています。

2023年のテーマは「極彩色の百鬼夜行」。東京都指定有形文化財に指定されている「百段階段」の空間を背景に、現代アーティストの作品や伝統工芸品などをダイナミックかつ繊細に展示。幻想的で美しく、かつ妖しい異世界が、階段廊下でつながる7つの部屋で展開されています。

■美しくて妖しい「あかり」と「物の怪」が待ち受ける7つの間

階段を進んだ最初の間「十畝(じっぽ)の間」を鮮やかに彩るのは、粕谷尚弘家元の一葉式いけ花と、中野形染工場が手掛けた越谷籠染灯籠。

鳥居に絡みつく藤蔓、極彩色の花、和洋さまざまな植物と、ゆかたの藍染に使われていた版型をリメイクした灯籠との、あかりのインスタレーションです。日本画家・荒木十畝による天井画と相まった異世界はインパクト大!

続く「漁樵(ぎょしょう)の間」は、今回の一番の見どころと言っていいかもしれません。

まず目に飛び込むのは巨大な柱水晶のオブジェ。そこから発せられるあかりを浴びた広間の精巧な彫刻。漁師、木こり、今回設置された鬼の陰影が妖しく浮かび上がり、異世界に迷い込んでしまったかのような心持ちに。

ちなみにこの水晶は、「エコ活動の芸術性がテーマ」という本間ますみさんのペットボトル作品。接着剤や塗料を一切使用していないというから驚きです。近くで眺めても、水晶の質感、透明感などが巧妙に表現されています。ペットボトルって、こんなにもクリエイティブな可能性を秘めているんですね!

以降も、さまざまなアーティストが広間ごとに趣向を変えて来場者を楽しませてくれます。

そして、美人画家として知られる鏑木清方が天井や小壁の彩色を手掛けた「清方の間」では、「対岸の現世」と題した展示が行われています。

こちらは照明作家・弦間康仁さんの作品。照明から洩れたアルファベットのあかりが、コズミックに空間を彩ります。

この階下にある「星光の間」にはさまざまな工房のガラス作品が並び、水の中をイメージした展示になっていました。そして「清方の間」は、水の底からあがり、岸から見える懐かしい現世のあかりをイメージ。弦間さんの作品に刻まれている文字は、百鬼夜行から免れるための呪文なのだとか。

贅の尽くされた7つの間それぞれに、現代アートのインスタレーションや、温故知新の伝統工芸品などが並び、見ごたえたっぷりの本展。美しく、妖しく、さまざまに変容する「あかり」と、ちょっぴり怖い「物の怪」の共演。時代も次元も超えた、真夏の白昼夢のような時間が過ぎていきました。

〈ホテル雅叙園東京〉の公式サイトでは、グッズがセットになった“オンライン限定”のチケットも販売されています。筆者が購入したのは「妖怪づくし・人面草紙 手ぬぐい付チケット」。各グッズはミュージアムショップでも販売されていましたが、チケットとセットで購入したほうが断然お得です! 気になった方はサイトをチェックしてみてください。

真夏だけの異世界の旅、ぜひ楽しんでみてはいかがでしょうか?

information

『和のあかり×百段階段2023 ~極彩色の百鬼夜行~』

場所:ホテル雅叙園東京(東京都目黒区下目黒1-8-1「百段階段」)

期間:2023年7月1日(土)~9月24日(日)

開場時間:11時~18時(最終入場 17時30分)

※8月19日(土)は17時まで(最終入場 16時30分)

入場料:大人1500円、学生800円

※グッズ付きのオンライン限定チケットや、レストランのお食事がセットになった特別プランもご用意

サイト:ホテル雅叙園東京 特設サイト

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【ちいさきもの、愛でる、喜び。「虫」と「人」の親密さを再確認する『虫めづる日本の人々』展】

蝉も鳴くのを躊躇うほど残暑厳しい時候ですが、夕刻になると草むらからチラホラと秋虫の声が聴こえるようになりました。

東京・六本木にある〈サントリー美術館〉では、2023年9月18日(月・祝)まで、秋の到来がより楽しみとなる企画展が開催されています。その名も『虫めづる日本の人々』。

古くから日本美術などにおいて重要なモチーフとなった「虫」。擬人化されて絵巻に登場したり、和歌に詠われたり、工芸のモチーフになったり。また、「蛍狩」や「虫聴(むしきき)」が大人の風流な遊びとして楽しまれていたようです。

そんな虫たちに焦点を当てた『虫めづる日本の人々』展にお邪魔してきました。

風雅で、痛快で、侘しくて。虫と人のおもしろい関係

入館し、薄暗い展示室に入ってまず聴こえるのは、虫たちの声。鈴虫でしょうか。リーンリーンと涼やかな声を響かせています。

1~6章で構成されている本展。第1章では、『伊勢物語』や『源氏物語』などの絵巻や屏風が展示され、それらの文芸と深く結びついた日本の虫たちの姿が紹介されています。

平安時代には、京都嵯峨野で鈴虫や松虫を捕まえ、そのうち姿形・鳴き声の優れたものを宮廷に献上する「虫狩(虫撰・むしえらみ)」が行われていたそう。それらの様子を描いた作品もさまざまに展示されていました。

私が興味深く感じたのは、平安期に編された『堤中納言物語』の「虫愛づる姫君」の展示。その展示キャプションによると、主人公の姫は化粧もせず、「人々が花よ蝶よともてはやすのは浅はかだ」と説き、さまざまな虫を観察して可愛がる変わり者。ですが、その姫の行動の本質を説く解説は真に的を得ており、痛快に感じるほどでした。ぜひ会場でチェックしてみてください。

ほかにも、再生・復活の象徴としての神秘的な意味を持ち、吉祥紋とされた「蝶」をモチーフにした大皿、かんざし、香合、香枕、打掛などが並びます。

また「蜘蛛」と「馬」をモチーフにした鞍も展示されているのですが、じつはこの組み合わせ、ちょっと意外な隠喩になっています。こちらもぜひ開場で確かめてみてください!

『論語』の教えがもとに!? 虫にまつわる作品や図譜の奥深さ

第3章には、季節の草花に合わせて虫たちを描いた「草虫図(そうちゅうず)」が並びます。これは中国で成立した画題で、日本にも伝来し、室町時代の絵師たちは「草虫図」を学び、多く描いたようです。本章には中国人や日本人の絵師の作品が並びます。

また、この「草虫図」には『論語』が関係しているのだとか。「詩を学ぶことで鳥、獣、草木の名前を多く知ることが出来る」(『論語』陽貨・第17)と、弟子に詩を学ぶ意義について説いたという孔子。この思想は日本の絵師たちにも大きく影響し、自らの知識を増やすべく草虫図を描きつつ、この画題を愛していたようです。

さらに江戸中期以降は大名や旗本が中心となり、優れた虫の図譜を制作。驚くべき精緻さで描かれた図譜が本展でも展示されています。

特に、第5章に並ぶ増山雪斎の「虫豸帖(ちゅうちじょう)」は、羽やトゲに至るまでの細やかな描写、質感の再現も見事で、つい見入ってしまいました。

伊藤若冲の『菜蟲譜』も見ごたえがあります。虫たちの表情豊かなこと。ひそひそと彼らの話す声が聞こえてくるようです。

また、上村松園、鏑木清方、伊東深水、川端龍子、土田麦僊といった名だたる巨匠の作品も展示されていましたよ!

現在、身近とは言い難く、どちらかといえば厭われる存在の虫たちですが、本展を巡ったあとは虫への見方が少し変わったような気がします。たまたま家に入り込んだ虫がいたとすれば、暫らくじっくり観察してから外に放つつもりです。

しみじみとした日本の美を堪能できる本展、ぜひ足を運んでみてください。

Information

『虫めづる日本の人々』

場所:サントリー美術館(東京都港区赤坂9‐7‐4 東京ミッドタウン ガレリア3階)

会期:2023年7月22日(土)~9月18日(月・祝)

開館時間:10時~18時(金・土曜は10時~20時)

 ※8月10日(木)、9月17日(日)は20時まで開館

 ※いずれも入館は閉館の30分前まで

休館日:火曜

入館料:一般1500円、大学・高校生1000円

 ※中学生以下無料

 ※障害者手帳をお持ちの方は、ご本人と介護の方1名様のみ無料

リンク:サントリー美術館・特設サイト

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【“美”のなかの“醜”も描く、甲斐荘楠音の全貌に迫る回顧展〈東京ステーションギャラリー〉で開催中】

近年、東京都内の各駅構内にはさまざまな美術展のポスターが並んで貼られることが多くなりました。そのポスターのなかで最近ひときわ異彩を放っていた『甲斐荘楠音の全貌ー絵画、演劇、映画を越境する個性』。それを目にするたび、そわそわ・もぞもぞするような奇妙な心持ちに……。

真っ白なおしろいをはたき、ボリュームたっぷりに結い上げた黒髪女性の目線。ゆるりと横になった女性の笑みを湛える口元――。

原画ではなく、もはやポスターからもただならぬ妖艶さを放つこの美術展。これらの作品を描いた甲斐荘楠音(かいのしょう・ただおと)とは? 原画やほかの作品も見てみたい! そんな好奇心に駆られ、〈東京ステーションギャラリー〉(東京都丸の内)で開催されている回顧展を訪ねました。

■画家、映画人、演劇に通じた趣味人――さまざまな芸術を“越境”した甲斐荘楠音

大正期から昭和初期に活動した日本画家・甲斐荘楠音(1894~1978)。作品のモチーフは主に女性。それもどこか退廃的で、美醜相半ばといった人間の生々しい一面を捉えた画風で名をはせた画家です。

1940年代からは画業を中断し、風俗考証家として映画界で活躍。時代劇衣裳デザインを担当するなど、日本の時代劇の黄金期を支える存在だったのだとか。

本展では、画壇、映画界、そして晩年には再び日本画の世界で活躍した楠音の“越境性”や“多面性”に光を当て、彼の全貌を明らかにする内容になっています。

膨大な展示数を誇る本展、とにかく見ごたえがありました! その中でも印象的だった作品やことがらをご紹介します。

■西洋の趣きも色濃く表現された、革新的画風

ギャラリー入り口のメインビジュアルにも採用されている『春』。瀟洒な着物をゆるりとまとい、くつろぐように横になる女性の手には極細のストロー。振袖の上には薄い玻璃グラスが置かれています。なにかにジッと視線を注ぐ目と、笑みを湛えるポッテリとした赤い唇がなんともミステリアス。

実際の作品は衝立型。長年個人所有だったために行方不明とされていた本作品、現在はメトロポリタン美術館の収蔵となっています。本展のためにニューヨークから凱旋し、楠音没後、日本では初公開となりました。

ところで、女性の表情にどことなく西洋画を思わせるものがありませんか? じつは楠音は青年期にレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロに深く傾倒。その趣きが『春』をはじめ、さまざまな作品にも色濃く表現されています。

こちらのポスターに採用されているのは『横櫛』という作品。歌舞伎演目『処女翫浮名横櫛(むすめごのみうきなのよこぐし)』に登場する、愛する男のためには悪事もいとわない「切られお富」がモデルになっています。

妖しげで、どこか狂気に満ちたその目。意味深な微笑み。近くで見るとゾワゾワッとするような怖さがあります。

本展ではこの『横櫛』が2点並んで展示されています。構図はほぼ同じですが、着物の絵柄、色、そしてダヴィンチの『モナ・リザ』の微笑を引用したというお富の表情が大きく異なります。もう1点の『横櫛』の表情とぜひ見比べてみてください。

■今でいうコスプレイヤー? 美意識を追求する楠音のこだわり

楠音のユニークさを目の当たりにしたもののひとつに、本人の扮装写真があります。写真右は女性に扮した楠音です。

幼少期から歌舞伎や芝居小屋に親しみ、年配の男性が美しい女形に変貌を遂げることに魔性を感じていたという楠音。そんな憧れからか、友人と古典演劇の衣裳をまとい、特に女形になりきって写真を撮ることも多かったといいます。

ほかにも、楠音がさまざまに扮装した写真、作品描写のために自らポーズをとった写真も展示されています。

1940年代からは映画界で活躍し、時代劇『旗本退屈男』『雨月物語』などの衣裳デザインを担当していた楠音。近年、東映京都撮影所でそれらが発見されたことから、俳優陣が実際に袖を通した衣裳の数々も展示されています。

さらに、未完の作品である2点の屏風『畜生塚』『虹のかけ橋(七妍)』、墨や鉛筆、木炭などで描いたスケッチ、あらゆるポーズの参考や研究に用いたスクラップブックなど、圧倒的な作品や資料、その膨大な展示数に、時間を忘れて見入ってしまいました。

楠音独自の美意識、それを表現するための追求心・探求心・執着心など、複雑で多面的な表現者の全貌を堪能できる本展、見逃す手はありません。

Information

甲斐荘楠音の全貌 絵画、演劇、映画を越境する個性

場所:東京ステーションギャラリー(東京都千代田区丸の内1-9-1)

会期:2023年7月1日(土)~8月27日(日)

※会期中、展示替えあり

休館日:月曜(7/17、8/14、8/21は開館)、7/18(火)

開館時間:10時~18時

※金曜は20:00まで開館

※入館は閉館30分前まで

入館料:一般1400円、高校・大学生1200円

※中学生以下無料

※障害者手帳等持参の方は入館料から100円引き(介添者1名は無料)

※学生は入館の際、生徒手帳・学生証を提示

TEL : 03-3212-2485

サイト:東京ステーションギャラリー特設サイト

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【「越後屋」を興した三井家の、創業期の事業や茶道具をたどる展覧会〈三井記念美術館〉にて8月末まで】

江戸時代において「現金掛け値なし」という革新的な商法を打ち出したことで知られる呉服店〈越後屋〉。ご存じの通り、現在の〈三越〉や〈三井財閥〉の源流となった店(たな)です。

三井グループが350周年を迎える2023年、東京都日本橋にある〈三井記念美術館〉では、越後屋開業350年記念特別展『三井高利と越後屋 ー三井家創業期の事業と文化ー』が開催されています。

1673年に〈越後屋〉を開業した三井高利と、その子どもたちによる創業期を、社会経済史資料をもとにわかりやすくたどる本展。店で使われていた帳簿や商売道具に加え、三井家の人々が道楽として蒐集してきた名物茶道具なども展示されています。

それにしても、350年も廃れることなく家業が続くというのは、並大抵のことではありません。やはり創業者である三井高利の考え方にヒントがあるはず! 名品の鑑賞を楽しみつつ、三井家のビジネスに向き合う心構えなどにも注目し、展覧会を楽しんできました。

■越後屋のビジネスの心構えとは? 時代劇で見るような商売道具もずらり

ところで、タイトル画像の分厚い帳簿は「大福帳」と呼ばれるもの。こちらは大坂で両替店を商っていた〈三井両替店〉の総勘定元帳にあたる帳簿です。半年に1冊作成され、現存数は160冊にも及ぶのだとか。この分厚さ、必要な情報に辿り着くにも骨が折れそう……。

金・銀・銭の3貨が流通していた江戸時代。金・銀の重さを量るために使われていた天秤や分銅も展示されていました。

そして、1832年(天保3年)に制作された〈越後屋〉江戸本店の立体模型「江戸本店本普請絵図面」も!

現代も著名な建築家が設計する建造物には模型がつくられることが多々ありますが、江戸時代にもこのようなものがつくられていたんですね。同じ江戸本店の内部を描いた「浮絵駿河町呉服屋図」と併せて見れば、店内の様子がよりリアルに感じられます。

ここまでユニークな展示物を取り上げましたが、ほかにも〈越後屋〉を興した高利や、その子どもたちによるビジネスの心構えなどを記した資料なども多く展示されています。

現在も“三井グループのこころ”として受け継がれる『宗竺遺書(そうちくいしょ)』。これは、高利が事業発展・繁栄保持のために残した言葉を、長男・高平がまとめて製本した三井家の“家憲”。財産相続の考え方、一族の協力体制、「同族の子弟は丁稚奉公の仕事から見習わせ、習熟するように教育しなければならない」などが説かれ、三井家を語るうえで重要な資料として展示されています。

さらに、奉公人が綴った事業に関するメモ書きも。三井家を支える当事者としての自覚と勤勉さが垣間見えるようでした。

そのような有能な奉公人を選ぶ目を持ち、育てた、高利。事業繁栄のヒントは、一族や奉公人などと分け隔てなく、三井家の事業にかかわる者としての意識を強く持つための教育にあったのではないか、と感じました。

そして、これらの資料を見ていて高利に抱いたイメージは、事業を大成功させ、莫大な富を得つつも、つとめて倹約家であり、謙虚であり、人々の声を聞く柔軟さを持ち合わせており、そして限りなくリアリストである姿。もし今の時代に生を受けているとしたら、高利はどんな事業を興すでしょうか。

■あの名物茶道具も! 信仰を寄せた商売繁盛の神様とは?

元文年間の幕府の貨幣改鋳を機に、営業利益が江戸期最大に延びた三井家。そんなタイミングもあって文化面への支出が顕著になり、特に茶道具蒐集が盛んだったといいます。

本展では、重要文化財であり大名物の「唐物肩衝茶入 北野肩衝」、樂家三代道入(通称ノンコウ)作であり、高利が一族の椀飯振舞いの席で濃茶を点てたという「赤楽茶碗(銘再来)」も並びます。

さらには、茶人としても名高い古田織部が所有していた「大井戸茶碗 十文字」も。器をわざと壊して継ぎ合わせ、そこに生じる美を楽しんだという織部が、大井戸茶碗を十文字に割って継ぎ合わせた、大胆でユーモラスな逸品。織部を主人公とした漫画『へうげもの』(山田芳裕作・講談社)の愛読者なら「これが……!」と、ニンマリしてしまうはず。

また、神仏への信仰が厚く、特に商売繁盛の神「大黒天」「恵比寿」を祀っていたという三井家。高利が亡くなった際に一族に分配された御形見箱には、尾形光琳による大黒天が描かれています。また、三井家3代目である高房直筆による大黒天や恵比寿の軸も。

〈越後屋〉の起こりからその繁栄、そこから発展した道楽や信仰まで、三井家創業期のさまざまな面を鑑賞できる本展。古物好きにも、ビジネスパーソンにも楽しめる内容です。そして美術館が入る三井本館は、重要文化財に指定されている重厚な洋風建築。美術館内には、織田有楽斎(織田信長の実弟)が京都・建仁寺境内に1618年頃に建て、現在国宝に指定されている茶室「如庵」も再現されています。建築ファンもぜひ訪れてみては?

Information

越後屋開業350年記念特別展

三井高利と越後屋―三井家創業期の事業と文化―

会場:三井記念美術館(東京都中央区日本橋室町2-1-1三井本館 7階)

会期:2023年6月28日(水)〜8月31日(木)

休館日:月曜(7月17日、8月14日は開館)

入館料:一般1000円/大学・高校生500円/中学生以下無料

問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)

リンク:三井記念美術館

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【サムライのおしゃれに“隙”なし!武家文化で育まれた美意識やこだわりを見るコレクション展】

東京・丸の内にある〈静嘉堂文庫美術館〉では、2023年7月30日(日)まで『サムライのおしゃれ ―印籠・刀装具・風俗画―』と題した展覧会が開催されています。

三菱財閥を興した岩崎家が収集した膨大なる古美術コレクションの中から、武家文化の日常生活のなかで育まれたサムライの美しい装身具、工芸品、風俗画などを精選して展示。国宝や重要文化財をふくめた珠玉の品が並ぶほか、「サムライのおしゃれ」というユニークなテーマでも話題を呼んでいます。

サムライたちは日々どのようなおしゃれを楽しんでいたのでしょうか? 粋なファッションに触れるべく、お邪魔してきました。

■第1章 サムライのおしゃれ

4つの章に分かれている本展。まず第1章の展示ルームに足を踏み入れると、明治初期に複製された『蒙古襲来絵巻 摸本 巻二』が展示されています。

鎌倉時代に起こったモンゴル帝国による日本侵攻。その際の、筑前国・生の松原に築かれた石築地の前を進む竹崎季長(たけさき・すえなが)の一党が描かれた絵巻です。

武士集団が身につけている甲冑は色とりどり。特に季長の甲冑は威風堂々たる朱の武具で、馬の鞍にはなんと「虎の毛皮」が敷かれています。トップに立つ者は、自身の甲冑だけでなく馬の装具にも余念がないのですね。

また同章では、武士であり、政治家・実業家としても知られる後藤象二郎が、英国ヴィクトリア女王から拝領した「サーベル」も初公開されています。

1868年に明治天皇に謁見予定の英国公使ハリー・パークスらは、2人の攘夷派志士に襲撃を受けますが、護衛を担当した土佐藩士・後藤象二郎と、薩摩藩士・中井弘は、志士らを討ち取ります。その感謝の印として英国から贈られたのがこのサーベルです。

長年行方不明とされていましたが、近年静嘉堂内で発見。刀身の中央には後藤象二郎の名前と、事件の日付も刻まれています。

■第2章 将軍・大名が好んだ印籠

岩崎弥之助がコレクションした印籠40点がずらりと並ぶ第2章。四季の自然、花鳥風月、故事人物などのモチーフを、蒔絵、彫金、螺鈿、象牙、奇石、堆朱などによって精緻に盛り込んだ印籠は溜息ものでした。

印籠に付随する根付との組み合わせによる世界感も見ものです。風流なもの、滑稽でおかしみのあるもの……きっとそのコーディネートにもサムライの“粋”が問われたのでしょう。

大名や将軍、さらには天皇まで蒐集を楽しんだという印籠。お抱えの印籠蒔絵師までいたというから、相当な熱の入れようです。

ちなみに、印籠のそもそもの目的は「常備薬を入れるケース」。一見すればなんてことない小物ですが、いつしかおしゃれを競い合うおしゃれ必需品へ変化したという、ものの価値の変容にも不思議なおもしろさを感じた章でした。

■あの『曜変天目』の展示も! 国宝や重要文化財も楽しめる第3・4章

さまざまな衣装をまとった市井の人々が行きかう『四条河原遊楽図屏風』が展示されている第3章。この二曲一双には、ファッションリーダーであった歌舞伎者、大小の拵(こしらえ)を下げる武士、踊る遊女たち、若衆など、280人前後が描かれているといいます。眺めていると、人々のざわめきが聞こえてくるよう。

第4章では、重要文化財の『羯鼓催花紅葉賀図密陀絵屏風』や、世界に3椀しか存在しないという国宝『曜変天目』、岩崎弥之助がロンドンを訪問した際に購入したという『銀懐中時計』などの展示も。

今回の展示で感じたのは、サムライのおしゃれに“隙”なし、ということ。服装、髪型、拵、小物など、細部の細部までコーディネートに余念がない武士たちのこだわりを見せつけられました。

ちょっとユニークなテーマの本展、ぜひ足を運んでみては?

Information

『サムライのおしゃれ ―印籠・刀装具・風俗画―』

会場:静嘉堂文庫美術館(東京都千代田区丸の内2-1-1 明治生命館1F)

会期:2023年6月17日(土)~7月30日(日)

休館日:月曜日、7月18日(火)(7月17日(祝)は開館)

開館時間:10時~17時(入館は16時30分まで)、金曜は18時(入館は17時30分)まで

観覧料:一般1500円、大高生1000円、障がい者手帳をお持ちの方(同伴者1名〈無料〉を含む)700円、中学生以下 無料 TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)

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【フランシスコ・ゴヤ、月岡芳年、浜田知明などが向き合ってきた「出来事との距離」】

現在『出来事との距離 ―描かれたニュース・戦争・日常』展が開催されている、東京都町田市にある〈町田市立国際版画美術館〉を訪ねました。

本展では、フランシスコ・ゴヤ、月岡芳年、四代歌川国政、浜田知明など、国も活躍した時代もさまざまな作家の作品が並びます。

これらの作家たちに共通するのは、作品から伺える「出来事との距離」。本展は1~5章でテーマが分けられ、それぞれにとても興味深いものでした。いくつか紹介していきます!

■第1章「ゴヤが描いた戦争」

フランシスコ・ゴヤは、宮廷画家として活躍する一方で、社会風刺画も手掛けたスペインの巨匠です。

本章では、フランス軍によるスペイン侵攻の惨状を1810~1820年に渡ってエッチングの手法で描いた『戦争の惨禍』を展示。政治体制の転換期にゴヤが見た不条理な戦争のありさまが、生々しく描かれていました。

さて、そんなゴヤの作品のどこに「距離」があるのか? それは『戦争の惨禍』という版画集が1863年に出版されたこと。ゴヤが没して35年後にようやく、当時の出来事として公にされたことになります。

版画集の出版時、もしゴヤが生きていたとしたら。何を思い、どんな気持ちで出版日を迎えたでしょうか。

第2章「戦地との距離」

版画家・彫刻家として、さまざまな名作を世に残した浜田知明。本展では、日本軍に入隊し、中国で軍務を行った際に観た風景、戦争の残酷さ、野蛮さ、愚劣さを訴えるエッチング作品が多く展示されています。

なかには目を覆いたくなるような信じがたい惨状の版画も……。また、一部の指導者が世界を操るという、核と戦争の構造を見抜いた浜田知明の代表作『ボタン(B)』も展示されています。

さらに、藤森静雄、前川千帆、畦地梅太郎、北岡文雄などが戦時中に手掛けた中国、台湾、朝鮮に関連する作品も。戦地との、物理的、精神的、嫌悪的、友好的な「距離」が本章では示されていました。

第3章「浮世絵と報道」

彰義隊と官軍の闘いを歴史上の人物に当てはめて描いた、浮世絵師・月岡芳年による『魁題百撰相(かいだいひゃくせんそう)』をはじめ、さまざまな錦絵がずらりと並ぶ本章も見ごたえたっぷりです。

ニュースや事件を直接的に報道することが禁じられていた江戸時代。絵師たちは事件を故事や古典になぞり、表現していたといいます。

また、噂が誇張・美化されて報道された「西南戦争錦絵」も。薩摩軍に女隊があるという噂が流れると、ある種の「美人画」として描かれ、人々の関心を集めたのだとか。

幕末から明治にかけての報道の特殊なあり方を目の当たりにした章でした。

昭和・平成・令和の時代の報道から得たインスピレーション

第4章では、昭和から平成にかけて活躍したアーティストの滑稽でユーモラスな作品が並ぶ「ニュースに向き合うアイロニー」、第5章の「若手アーティストの作品から」は、展覧会テーマと響き合う制作を行う令和時代の若手作家4名の作品が紹介されています。

第5章で特集されている松元悠さんは、法廷画家としても活動するアーティスト。さらには、当事者の追体験を試みるために事件現場に足を運び、当事者が見ていたかもしれない風景と、マスメディアやSNSで得た素材を継ぎ接ぎした作品を制作しています。

ほかにも、SNSなどから発信される情報にインスピレーションを得て、情報との距離をそこはかとなく感じさせる若手作家の作品を鑑賞していると、冷やかさ、滑稽さ、不確かさといったさまざまな情報が頭の中を駆け巡るようでした。

時代によって報道のあり方はこんなにも違うのか……と興味深く楽しめる本展。高名な作家の作品がさまざまに鑑賞できるのも魅力です。

日常にあふれる報道と自身との距離はどれほどでしょうか。それは本当に確かな情報でしょうか。また自分事に思える報道とそうでない情報の違いとは。そんなことを改めて考えるきっかけをもらった展覧会でした。

Information

『出来事との距離 ー描かれたニュース・戦争・日常』

会場:町田市立国際版画美術館(東京都町田市原町田4-28-1)

会期:6月3日(土)〜7月17日(月・祝) 

※月曜休館、ただし最終日7月17日(月・祝)は開館

開館時間:平日10時~17時、土・日・祝日10時~17時30分(入場は閉館30分前まで)

観覧料:一般800円、大・高生400円、中学生以下無料

TEL:042-726-2771

サイト:町田市立国際版画美術館

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【NHK朝ドラ『らんまん』のモデル・牧野富太郎の書斎が再現された〈牧野記念庭園〉へ】

“植物分類学の父”と呼ばれる植物学者・牧野富太郎博士の生涯をユーモラスに描く、NHK朝の連続テレビ小説『らんまん』を毎朝楽しみにしている人も多いのではないでしょうか。かくいう私もそのひとり。

ドラマのモデルとなった牧野博士は、大正15年~昭和32年に逝去するまでの約30年間、東京都練馬区の大泉で過ごしました。その居住地が〈練馬区立 牧野記念庭園〉として無料公開されているのをご存じでしょうか?

博士愛用のさまざまな道具、執筆した書物、描いた植物図などを展示した「常設展示室」や、年に3~4回展示内容を入れ替える「企画展示室」と、博士の遺品や関連資料が展示された記念館になっています。

生涯のなかで発見・命名した植物は1500種にも及ぶという、日本の植物分類学の礎を築いた博士の偉業に触れたいと、〈牧野記念庭園〉にお邪魔してきました。

門をくぐると、さまざまな植物が青々と茂った庭園が広がっています。高・中・低木、さまざまな山野草、シダ類が植栽され、各植物には和名の名札がつけられています。

研究用にと設けられたスペースなのか、3画に分けられた見本園も。ここにはドラマのオープニング曲の一番最初に映し出される黄色い花「ジョウロウホトトギス」が植えられていました。

現在はまだ蕾もついていませんが、10月の開花期に訪れれば、しおらしく俯く貴婦人のような黄色い花に出会えるかもしれません。

園内には博士が名付けた植物も多々。彼の研究を支えた妻・壽衛(すえ)さんの名をとった「スエコザサ」も、博士が詠んだ句と一緒に植栽されています。

さて、庭園をぐるりと巡ったら「常設展示室」へ。ここには、博士の生涯とその解説、愛用していたさまざまな道具類が展示されています。

19歳で初めて上京した際に買い求めた顕微鏡も。ドラマでも描かれていましたが、実話だったんですね!

画力にも恵まれていた博士。植物画を描く際に使用していた絵筆も展示されています。どうやら蒔絵職人が使う極細筆「根朱筆(ねじふで)」を愛用していた様子。

さらに、博士の落款印も展示されていました。自身で作印したもののほか、数多くの書画を残した僧侶・一路居士(いちろこじ)による印も。

下の写真の一番右にある、ひらがなの「の」をぐるぐる巻きにしたような印、ちょっと面白いですよね。どうやら「巻いた“の” = 牧野」という洒落をきかせた印なのだとか。博士のお茶目っぷりがうかがえます。

同園には、博士が晩年に使っていた書斎と書庫の一部が「鞘堂」として残されています。ここに当時の「書斎」を再現するプロジェクトが進められてきましたが、2023年4月に一般公開されました。

4万5千冊もの書籍を所有していたという博士。当時を模した書斎には、足の踏み場もないほどに蔵書が積み上げられています。愛用の電気スタンド、ガラスの「活かし箱」、双眼鏡などが置かれ、晩年の博士が研究に勤しむ臨場感が立ち現れるようです。

今話題のスポットとあって、多くの来園者でにぎわっていた〈牧野記念庭園〉。植物好きな人、歴史好きな人、古物好きな人と、楽しみ方もさまざまです。ぜひお出かけしてみてはいかがでしょうか?

Information

練馬区立 牧野記念庭園

場所:東京都練馬区大泉6‐34‐4

開館時間:9時~17時

休館日:火曜、年末年始

入館料:無料

TEL:03‐6904‐6403

サイト:練馬区立 牧野記念庭園

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【「竹久夢二」の多才な表現に触れる!大正ロマンの「描き文字」展】

東京大学のほど近く、東京都文京区に〈竹久夢二美術館〉があるのをご存じでしょうか。弁護士・鹿野琢見(1919~2009年)によって設立された私立美術館です。

創設者である鹿野琢見は、美少女・美少年・美人画で一世を風靡した高畠華宵(1888~1966年)の作品に魅了され、所有する多くのコレクションを公開すべく、1984年に〈弥生美術館〉を創設。

また竹久夢二のファンでもあり、多くの夢二コレクションも所蔵していました。1990年に〈弥生美術館〉の同敷地に〈竹久夢二美術館〉を創設しました。

同館では年に4回、さまざまな切り口による夢二の企画展が開催されています。2023年4月1日(土)~6月25日(日)の期間、『竹久夢二 描き文字のデザイン ―大正ロマンのハンドレタリング―』と題した展覧会を開催中。

グラフィック・デザイナーとしても才能を発揮した夢二の、手描きによるレタリング(デザインされた文字)に焦点を当てた本展。ポスター、雑誌や楽譜の表紙、書籍の装幀などに描かれた独創的なフォントがさまざまに紹介されているとのことで、お邪魔してきました。

まずはこちら、夢二が表紙を多く手掛けた「セノオ楽譜」です。

こちらの楽譜は、大正時代に設立された〈セノオ音楽出版社〉が、古今東西の名曲を楽譜に落とし、出版したもの。当時は音楽に親しむ手段として、「ピース楽譜」と呼ばれる小曲1編だけを収めた楽譜が多く出版されていたようです。

それらの楽譜の表紙の多くを手掛けていたのが、夢二だったのだとか。

文字の太さ、形状、文字の強弱も、実にバリエーション豊富。そのフォントに優しさや慰めを感じさせるものもあれば、強さや刺々しさを感じさせるものも。文字だけで、さまざまな心象を表現できる夢二の匠さに驚かされます。

また、「涙」「鳥」「花」「月」「日」といった文字の図案化のユニークさ。特に「花」は美しさのなかに刺々しさも含まれ、「花かそもなれ」の歌詞にも通じるものが。

「歌」という漢字ひとつにしても、こんなにも表現が可能とは! 見ているだけで楽しくなってきます。

「春」という描き文字にもフォーカス。四季のなかでは特に「春」を好み、その季節特有の感傷を、絵画や詩歌などで表現していたという夢二。暖かな季節ということもあって、赤系の色づかいも多い様子。

また、書籍の装幀も多く手掛けていた夢二の、いくつかの作品も展示されていました。その中で、個人的に好みだったのが、こちらの『凧』。

表紙をめいっぱい埋めつくす「凧」の字のダイナミックさ。一瞬、幾何学模様のような装飾かなと思ったのですが、よくよく眺めているなかで「ハッ…!」と気づかされるその意匠。この潔さに心掴まれました。

ほかにも『恋愛秘語』の文字のおもしろさと、それらを分解して装飾にした表紙もかっこいい。

さまざまな夢二の描き文字に触れつつ、直筆の書画、恋人や知人などに宛てた手紙など、夢二の多彩な文字の表現を楽しめる展示になっています。

また、館内で続く〈弥生美術館〉には、創設者・鹿野琢見がコレクションした、美人画の巨匠・高畠華宵の作品展示も。

「夢二式美人」という言葉が確立されるほど、美人画で有名な竹久夢二ですが、彼の意匠は描き文字をはじめ、ありとあらゆる部分で表現されていることを発見。改めて、彼の多才さを思い知る展覧会でした。

〈竹久夢二美術館〉と〈弥生美術館〉が併設され、それぞれの企画展と常設展を同時に鑑賞できる同館。現在は、1980~90年代に活躍した伝説のファッション・イラストレーター『森本美由紀展』も6月25日(日)まで開催されています。

年代を超えたさまざまなアーティストの作品を一度に楽しめる同館を、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

Information

『竹久夢二 描き文字のデザイン ―大正ロマンのハンドレタリング―』

場所:弥生美術館・竹久夢二美術館(東京都文京区弥生2‐4‐3)

会期:2023年4月1日(土)~6月25日(日)

開館時間:10時~17時(入館は4時30分まで)

休館日:月曜、展示替え期間中、年末年始

入館料:一般1000円/大・高生900円/中・小生500円

※2つの美術館は同じ建物内で見学ができ、上記料金で2館あわせてご覧いただけます

TEL:03‐5689‐0462

サイト:弥生美術館・竹久夢二美術館 サイトはこちら

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【圧倒的迫力に酔いしれる《東福寺展》】

こんにちは!《美術品・骨董品専門のオークションサイト》サムライオークションスタッフの井戸です。

先日、東京国立博物館にて開催されていた【東福寺展】に遊びに行ってきました。

「圧倒的スケール」「すべてが規格外」

これらのキャッチコピーだけでワクワクが止まりません。

本展での「圧倒的スケール」の象徴が釈迦如来 四天王像や仏手による木彫りの像たちです。広大さもさることながら彫りの細かさ、表情、衣類のしわ、指先のゴツさなど細部の細部にまでこだわり抜かれたクオリティに圧倒されました。仏手以外は撮影NGな為、写真はありませんが、四天王像などの目は砡でしょうか。命が吹き込まれており、力強い生命力を感じます。

焼け残りの仏手に至っては2m17cmもあるとのこと。手だけでこのサイズということは本像はどれだけのサイズだったのでしょうか…開いた口が塞がらないとはまさにこういうことを言うんだなと。

さて、順路は前後しますが、本展のもう1つの見どころが吉山明兆の五百羅漢図。ここは「すべてが規格外」の象徴と私は感じました。

明兆の羅漢図は全部で50幅。この時点で規格外です。更に14年もの歳月を掛け、総勢70人もの職人による大修繕は代え難い苦労があったことでしょう。

描かれている羅漢たちの神秘な表現や極彩色、毛線の細さの他に、みんなでお風呂に行ったり、剃髪をしたりと親しみを覚える描写が多数でとても楽しめます。中には漫画風な解説を入れたユニークな運営側の施策なんかもあったりしますよ。

本展は第1会場と第2会場で別れていますが、1会場辺り少なくとも2時間は滞在していられる程充実した内容です。

また、まだ春ではありますが、東福寺の絶景スポット通天橋を紅葉の景色で再現したフォトスポットも展開しています。夏を通り越して秋の装いですが、10月からの京都会場ではジャストタイミングで開催されますので、西にお住いの方は是非【東福寺展】に足を運んでみてください。

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