「源氏物語」屏風や、国宝「更級日記」など、近世の御所を飾った絢爛の品々に眼福!『皇室のみやび―受け継ぐ美―』展

東京都千代田区の皇居東御苑内に1993年に開館した博物館〈三の丸尚蔵館〉。2019年から建て替え工事が進められてきましたが、2023年11月に〈皇居三の丸尚蔵館〉として開館しました。

現在、開館記念展として「皇室のみやび―受け継ぐ美―」を開催中。2023年11月3日(金・祝)から2024年6月23日(日)の約8か月間、4期に分けてテーマを変え、皇室に受け継がれてきた多種多彩な収蔵品を公開しています。

5月12日(日)までは「第3期:近世の御所を飾った品々」をテーマに、京都御所に伝えられた御在来や、宮家を飾った絵画や書、工芸などを展示。宮家に捧げられた品々とあらば、一級のなかの一級品であることは確実。目を肥やすべく本展を訪ねました。

金や銀に彩られた、絢爛の調度品がずらり

〈皇居三の丸尚蔵館〉へは、地下鉄の大手町駅で下車し、皇居正門の大手門へ。堂々たる門をくぐり、美しい石垣の通路を抜けていくと、博物館がお目見え。ちなみに、入館するにはオンラインでの事前予約が必要です。

展示品が並ぶ館内に入った瞬間、目に映るのは黄金色に輝く品々ばかり!

まず正面に飾られていたのは、金の梨子地に、金や銀の蒔絵で菊花紋様をたっぷりと施した厨子棚。京都御所の伝来品だそうで、その絢爛さに「さすが宮家……」と唸ってしまいます。

《蔦細道蒔絵文台・硯箱》

さらに、金銀煌めく華麗な蒔絵硯箱に、流水・岩・咲き乱れる菊花などの緻密な蒔絵が施された歌書箪笥――。これら金銀の調度品を普段使いにしていたかどうかはわかりませんが、“天子”を中心とする宮家の権威とその雅やかさに度肝を抜かれました。

《箏 銘 團乱旋(とらでん)》

《笙 銘 錦楓丸(きんぷうまる)》

また、貝で獅子を彫って象嵌した「箏」、雅楽で使う「龍笛」や「笙」などの展示も。歴代の天皇や皇族は、学問だけでなく文化芸術にも造詣が深かったとのこと。これらの楽器に触れ、雅楽にも熱心に取り組み、親しんでいたのでしょう。

個人的に素敵だと思ったのが、こちら。《菊花散蒔絵十種香箱》です。

《菊花散蒔絵十種香箱》

組香で使用する道具をひとつの箱にコンパクトにまとめたもので、婚礼調度品のひとつだったといいます。入内した女性達は、このような雅びな遊びを楽しんでいたんですね。

御所を飾った屏風にちょっと意外なモチーフが

続く展示室には、御所を飾った衝立や屏風が展示されています。今、某ドラマでも話題の「源氏物語」を取材した、旧桂宮家伝来の《源氏物語図屏風》も見事です!

桃山時代に狩野永徳によって描かれたとされ、かつての宮廷内の様子、過ごし方、美しい御召物など、さまざまに目を奪われます。なかには光源氏の姿も。ぜひ探してみてください。

《源氏物語図屏風》伝 狩野永徳

個人的にじっくり眺め入ったのは、1747年に渡辺始興によって描かれた《四季図屏風》。団扇型、菱形、丸形、六角形など6つの絵のなかに四季の移ろいが表されています。

《四季図屏風》渡辺始興

第115代・桜町天皇が1747年に退位したあとに住まう仙洞御所のために制作された作品とのこと。松竹梅や雁といった縁起のよいモチーフに加え、田植え期の素朴な農民たちを描いた画も加わっています。

絢爛な世界に暮らしつつも、それらの生活が成り立つのは、米や野菜を育て、漁をし、機を織り、普請する、農民や庶民の存在があってこそ。そんな理を常に忘れまいという思いが、この画に託されているのかもしれません。

また、本展の目玉のひとつである、藤原定家が書写した《更級日記》(国宝)も展示されています。この定家直筆の古写本にまつわるエピソードがちょっとおもしろいんです! 外部サイトになりますが、「美術展ナビ」に詳しく紹介されているので、チェックしてみてください。

国宝《更級日記》藤原定家

展覧会を堪能したあとは、一般公開されている皇居東御苑を散策するのもおすすめです。本丸、天守跡、富士見櫓、番所など、江戸城の面影を探すのも一興。また、上皇上皇后両陛下がご提案し、ご植樹された果樹や樹木なども目にすることができます。

春風も心地いいこれからの季節、ぜひ展覧会とあわせて訪ねてみてはいかがでしょうか。

Information

開館記念展「皇室のみやびー受け継ぐ美ー」

第3期:近世の御所を飾った品々

会期:2024年3月12日(火)~5月12日(日)

(前期:3月12日(火)~4月7日(日)、後期:4月9日(火)~5月12日(日))

会場:皇居三の丸尚蔵館(東京都千代田区千代田1‐8 皇居東御苑内)

開館時間:9時30分~17時(入館は16時30分まで)

休館日:月曜

入館料:一般1,000円、大学生500円

※入館にはオンランでの事前予約が必要です

※障害者手帳をお持ちの方とその介護者各1名は無料

リンク:皇居三の丸尚蔵館 公式サイト


東郷青児や岡本太郎の作品も!日本画家による「シュルレアリスム」作品やその変遷に触れる展覧会

「シュルレアリスム」と聞いて頭に思い浮かぶのはどんな画家でしょうか。例えば、サルバドール・ダリ、ルネ・マグリット、デ・キリコなどを思い出す方も多いはず。

フランスに起源を持つこの文学・芸術運動は、1920年代後半に海を越えて日本にもたらされ、日本人のシュルレアリストを多く生み出しました。

シュルレアリスムの父と呼ばれるアンドレ・ブルトンが、1924年に『シュルレアリズム宣言』という書物を刊行して100年目となる今年。東京都〈板橋区立美術館〉では、「シュルレアリスムと日本」と題した展覧会が開催されています。

館内を飾る絵画は、日本の画家が描いた作品のみ。1929年に国内で初めて発表されたシュルレアリズム作品から、戦前・戦後と、さまざまな変遷をたどった芸術運動を追って展示。社会的な背景も垣間見える内容となっています。

日本で初めてシュルレアリズム作品を発表したのは、あの画家⁉

1929年の二科展に出品された、国内初とされるシュルレアリスム作品3点が本展で展示されています。作者は、東郷青児、阿部金剛、古賀春江。

東郷青児といえば、多くの人が知る美人画家。ですが、展示作品《超現実派の散歩》は、男性とも女性ともつかない人物が月に手を伸ばすような、いわばシュールな構図で描かれています。フランスから帰国直後の、美人画家と評される以前の東郷の知られざる一面をのぞいた気分。

ちなみに作品タイトルには「超現実派」とありつつも、自身はシュルレアリストと呼ばれることを否定。そこにはどんな思惑があったのでしょうか。興味深いエピソードです。

キャプション:板橋区立美術館の外観

時代に翻弄された、戦前・戦中のシュルレアリストたち

その二科展を機に、シュルレアリズムという芸術運動に注目が集まるようになった日本。1920年代にパリに遊学し、最先端の美術潮流だったシュルレアリズムにも触れた画家・福沢一郎によって本格的に導入されていきます。

ところが、戦争の風潮が色濃くなると、シュルレアリスムの表現は共産主義との関係を疑われる事態に。1941年には、福沢と、詩人でありブルトンの『超現実主義と絵画』の翻訳者でもある瀧口修造が拘束・尋問されたという事件もあったそう。

そんななか、作品を排除してでも、福沢などが立ち上げた会の存続に奔走したという芸術家たち。追い込まれ、揺れながら、自分たちの自由な表現に向き合う画家たちの思いを、彼らの手記などを通して知ることができます。

戦争を経験した、シュルレアリストたちの表現

戦時中は多くの画家も召集され、戦地へ赴くことに。なかには命を落とし、二度と筆を握れなかった人もいたそうです。

一方で、命からがら帰還できた画家たちは、戦地の経験、目にした光景などを作品に反映。捕虜、復員、娼婦といったものをモチーフにしたシュルレアリズム作品も本展で目にすることができます。

そのなかのひとり・山下菊二は、中国戦線から帰還後、自らの加害者意識や、社会の暗部と向き合い続けるための過酷な創作活動を続けたといいます。本展に展示されている《新ニッポン物語》では、アメリカの支配下にある日本への強烈な風刺、倒錯した明るさなどを表現。獣、有刺鉄線、いくつものストリートプレートなどが組み合わさり、混沌・欲望・おぞましさといったものがあふれています。決して心地いい雰囲気ではありませんが、戦争を経験したことで向き合わざるを得なかった表現なのかもしれません。

ほかにも、岡本太郎、浜田知明、三岸好太郎、植田正治(写真作品)などの作品のほか、JAN、アニマ、表現、動向、貌(ぼう)、デ・ザミなど、シュルレアリスム隆盛期に誕生したさまざまな美術グループやその会報の展示も。日本におけるシュルレアリスムの変遷をたどる本展、興味深く感じるものがきっとあるはずです。

2024年4月27日(土)からは〈東京都美術館〉で「デ・キリコ展」もスタートします。さまざまな角度からシュルレアリスムに触れられる1年になりそうです。

Information

『シュルレアリスム宣言』100年 シュルレアリスムと日本

会期:2024年3月2日(土)〜4月14日(日)

開館時間:9時30分~17時(入館は16時30分まで)

休館日:月曜

観覧料:一般650円、高校・大学生450円、小・中学生200円

※土曜は小中高校生は無料

※65歳以上・障がい者割引あり(要証明書)

※当館でのお支払いは全て現金のみ

リンク:板橋区立美術館 公式サイト