中国の名勝と重なる“日本の山水画”も描いた、18世紀の天才画家「池大雅」の回顧展

江戸時代に活躍した文人画家・池大雅(いけのたいが)。現在、生誕300年を記念した『池大雅―陽光の山水』展が、東京都千代田区にある〈出光美術館〉で2024年3月24日(日)まで開催されています。

東京では約13年ぶりという回顧展。一橋徳川家から制作を依頼された《楼閣山水図屏風》(国宝)や、与謝野蕪村と競作した名作であり、川端康成の蒐集品としても知られる《十便十宜図》(国宝)のほか、重要文化財八件を含む山水画が一堂に会す本展。三つ折り仕様のA4サイズパンフレットからも、展覧会にかける思いがヒシヒシと感じられます!

陽光の人―― 池大雅の魅力とは?

開幕直後の平日にもかかわらず、多くの来館者でにぎわう本展。ファッショナブルな服装の若い方も多く、幅広い年代の方が池大雅作品に関心を持っているようです。

展示されている作品は、ゆるりとした筆さばきの軸から、緻密に点描を重ねつつも雄大に描かれた山水の屏風など、スケールもさまざま。

本展の解説によると、大雅作品の特徴は、四季の移ろい、昼夜、風や空気の質感や気象の変化、光のきらめきや木葉のさざめきまでも描ききる巧みさにあるといいます。

確かに、水墨や色数の少ない作品であっても、そこにあったであろう空気感や、絵には捉えがたい自然界の機微といったものまで表現されているように感じます。展覧会のタイトルにある「陽光の山水」という言葉が、まさにしっくり来るようです。

中国文人への憧憬が垣間見える「画」と「書」

中国文化に深い憧れを抱き、中国の名勝に思いを馳せていたという大雅。叶わぬ渡唐を夢みつつ、日本各地を旅し、そこで見た風景を山水画に落とし込み、中国文人画の模倣に終わらない、独自の芸術を確立させたといいます。

本展では、大雅が巡った浅間山、比叡山のほか、松島などの景勝地を描いた《日本十二景図》の作品も。数多くの名勝を目の当たりにした大雅だからこそ、想像だけでは描けない生き生きとした風景が山水画にあふれているのだと感じました。

また、作品に添えられている篆書や隷書も、さすが中国文人画に親しんだ人ならでは……! といった趣き。描くモチーフによって書き分ける書の巧みさにも驚きです。

池大雅の交友

作品を眺めるなかで個人的に関心事だったのは、大雅の交友関係の幅広さ。

体よりも大きな瓢箪でナマズを押さえる人物を、ゆったりとした筆さばきでおおらかに描いた《瓢鯰図》には、江戸時代中期の禅僧であり漢詩人の大典顕常の賛文が添えられています。

また、“煎茶の祖”という見方もある売茶翁(ばいさおう)をゆるりと描いた作品には、売茶翁本人による賛文が記されています。その解説には、晩年の売茶翁から愛用の急須を形見分けされたという大雅の交友エピソードも。中国文人に憧れた大雅ですから、煎茶に親しんだ売茶翁との交流もうなずけます。

そして、大雅の画に大きな影響を与えたという木村蒹葭堂(きむらけんかどう)。大坂の裕福な商家生まれで、古今東西の多彩なコレクションを蔵した「浪速の知の巨人」は、13歳で大雅に師事。彼が持つ中国文人画などのコレクションを大雅も目にし、自身の作品にも取り入れたのだとか。

また、儒学者・篆刻家・画家として知られる高芙蓉や、書家の韓天寿とは終生の友として交友し、富士山、立山、白山などの山々をともに踏破したといいます。

一橋徳川家からの依頼にも筆をふるい、庶民から大名家まで、多くの人に愛される好人物であったのだろうと想像できるエピソードが散りばめられていました。

国宝や重要文化財を含め、楽しめる要素が盛りだくさんの「池大雅―陽光の山水」展。ぜひお出かけしてみては?

Information

生誕300年記念 池大雅―陽光の山水

会期:2024年2月10日(土)~3月24日(日)

会場:出光美術館(東京都千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階)

開館時間:午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)

休館日:月曜

入館料:一般1200円、高・大生800円、中学生以下無料(ただし保護者の同伴が必要です)

※障害者手帳をお持ちの方は200円引、その介護者1名は無料です

リンク:出光美術館