〈小杉放菴記念日光美術館〉所蔵品を“東京”で観られるチャンス!
栃木県日光に生まれ、明治末期から昭和にかけて活躍した画家・小杉放菴(こすぎほうあん)。洋画、南画、日本画と幅広いジャンルの絵画を手がけたことで知られています。
2024年は放菴の没後60年にあたり、東京都八王子市にある〈八王子市夢美術館〉では、日光の〈小杉放菴記念日光美術館〉の所蔵品を中心とした展覧会『小杉放菴展』を2025年1月26日(日)まで開催しています。
本来は、日光へ行かなければお目にかかれない放菴の作品を、東京都内で観られるチャンスです!
放菴の多彩な画業の礎とは?
日本美術院(院展)の洋画部などを牽引するなど、洋画家としても名を馳せてきた放菴ですが、本展は主に日本画家としての側面に焦点を充てつつ、画家としての生涯を一望できる内容になっています。
ちなみに、放菴が多様なジャンルの絵画を描いたのは、東洋西洋を問わない幅広い素養を持っていたことにあるといいます。その素養は、幼少期から絵の手ほどきを受けた南画家の養祖父、国学・漢学を教わった国学者の実父、若き日に弟子入りした洋画家・五百城文哉(いおきぶんさい)、上京して入会した小山正太郎主催の洋画塾「不同舎」などからの学びにあり、それらの経験が放菴の画業の礎となったようです。
本展では五百城文哉に学んだ頃の水彩画も展示。日光の社寺などを描き、〈未醒〉と款記されています。写実的で色鮮やかな作品に、放菴の画力の高さが伺えます。
また、カンヴァスに油彩の作品もいくつかあり、そのモチーフは中国の伝記や漢詩に題材をとったものも。中国の伝記集『列仙伝』に登場する黄初平を描いた《黄初平》は、背景に金箔地のような日本画のニュアンスが敷かれており、ひとつの作品にさまざまな国の要素がミックスされています。放菴ならでは、といった閃きでしょうか。
「油絵は遂に予と分袂せん」晩年は日本画・水墨画に傾いていった放菴
放菴と言えば、「放菴紙」と呼ばれる、越前(福井)の職人に特別に漉かせた麻紙を用いた作品がよく知られています。その麻紙の風合いや、墨の滲みを生かした画風は、放菴独特のもの。それらの作品も数多く展示されていました。
なかでもダイナミックな《白雲幽石図》。浮き雲のような巨大な岩の右端に、翁がちょこんと座っています。その姿はもはや仙人然。
晩年、新潟県妙高市に「安明荘」という別荘を建てて過ごしたという放菴。その庭には「高石」「むじな石」と呼んだ大岩があり、その上に腰かけては妙高山を眺めていたのだとか。もしかしたらこの翁は、放菴自身でしょうか? 飽かず眺めていられる、不思議な魅力があります。
初期から晩年まで油彩画と日本画を並行して描いた放菴ですが、晩年は国政に係るもののみ油彩で描き、それ以外は日本画・水墨画に傾倒していたといいます。「予は茲に岐路に立つを見る、油絵は遂に予と分袂せんとるらし」「油絵具次第に遠きものに見え、水と墨との謄蒸眼前に在る」という言葉も残っています。
漢詩を題材に長閑な風景や幽玄な情景など描いた水墨画や、つい口元がゆるむ人々の表情など、ゆったりした心持ちで鑑賞できる作品もあれば、独特の空間の切りとり方などにハッとする作品もあり、見応えたっぷりです。
幾年経っても古びることなどないような、普遍性さえ感じる放菴の作品。いつか日光の美術館にも足を運んで、もっと多くの放菴作品を観てみたい。そんな気持ちを抱いた展覧会でした。
Information
小杉放菴展
会期:2024年11月16日(土)~2025年1月26日(日)
会場:八王子市夢美術館(東京都八王子市八日町8-1ビュータワー八王子2F)
開館時間:10時~19時(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜
観覧料:一般 1000円、学生(高校生以上)・65歳以上 500円、中学生以下 無料
リンク:八王子市夢美術館