【勇ましく、凛々しく、ちょっと滑稽な「サムライ」が集結!『北斎サムライ画伝』】

「侍ジャパン」「SAMURAI BLUE」など、日本を代表するアスリートチームにも愛称づけられるほど、強さ、逞しさ、勇ましさ、尊び、誇りといった、強勇・高潔のイメージを宿す「サムライ」。

ところで、そんなサムライへのイメージは、いつ、どんなタイミングで発生したのでしょうか? 彼らが現存していた時代も同様のイメージで尊ばれていたのでしょうか?

東京都墨田区にある〈すみだ北斎美術館〉では、サムライに焦点を当てた展覧会『北斎サムライ画伝』が2024年2月25日(日)まで開催されています。江戸時代後期に活躍した浮世絵師・葛飾北斎と、その愛弟子たちが描いたサムライの絵が、さまざまなテーマと視点で展示されています。

江戸時代のサムライの日常

泰平の世であった江戸時代。サムライは戦を離れ、幕府や藩の政治を担う存在に。本展では、そんな平穏な時代を生きたサムライ達の姿を、半紙本や錦絵などを通して知ることができます。

町人が行き交う通りを大小二本挿してひとり歩くサムライ。川崎宿にあった奈良茶飯の店「万年屋」に入店し、外食を楽しもうとするサムライ。公務で天体観測をするサムライ。いずれも、穏やかな時代ならではのサムライ達の姿が描かれています。

一方で、気持ちのゆるみや人間臭さが捉えられた絵も。展示されていた『画本狂歌 山満多山』には、着物をはだけ、手桶を肩に担いて鼓のように叩いて歩く2人の酔っぱらったサムライが。それを見て苦笑する女性も描かれています。

また、北斎画『富嶽三十六景 従千住花街眺望ノ不二』の、参勤交代を終えて懐かしい故郷を目指すサムライ達の表情は、張り詰めた任務を終えて解放感に浸っているような和やかさ。

サムライと言えども、ひとりの人間。羽目を外したそんな姿も市井で度々見られたはず。それらを鋭くとらえ、絵に落とし込む北斎もさすがです。

江戸時代の読書ブームも、サムライのイメージ定着に影響した?

歴史・伝記などに登場する英雄をモチーフにした「武者絵」も多く描いた北斎。展示物のなかには、平清盛、牛若丸と弁慶といった「源平」がテーマの絵も多く見られました。平安時代後期から「サブラヒ」として存在していたということは、源平の頃がサムライの黎明期といえるのでしょうか。

また北斎は、「読本」と呼ばれる今でいう小説の挿絵や、『北斎漫画』という絵手本も手がけています。江戸時代には読書ブームが訪れ、多くの庶民が貸本屋から本を借りたりしていたそう。実際に展示されている半紙本の多くには手垢がべったり。あまたの人が手に取っていたことが一目瞭然でした。

そして、そこに描かれているサムライ達は、凛々しく、猛々しく、多くの人の心を惹きつけたであろう勇ましい姿。サムライの強勇・高潔なイメージは、こういった読本などから庶民にイメージづけられていき、今に至るのかもしれません。

サムライと言えば、切腹……?

日本独自の、それもサムライ独自の風習とされている「切腹」。本展でも「サムライたる場面」とテーマを打ち、自害にまつわる絵や解説が展開されていました。

切腹とは「自分の真心を示す手段である」であり、「腹には霊魂と愛情が宿っている」ために腹を切るのだそう。真心を示すために腹を切る……⁉ 今じゃ考えられない観念……。

ちなみに、時代劇などで切腹を命じられるシーンを見かけますよね。これは一部のサムライだけに認められたものだったそうです。死罪が命じられた際は斬罪を基本としつつ、サムライとして認められるべきところがあれば、切腹が許され、本人も失われた面子を回復するために、それを受け入れたといいます。

現代人からすれば、恐ろしすぎて、もはや考えられない行為。でも、それを成せる者こそ「真のサムライ」ということなのでしょうか。サムライとはやはり次元の違う世界の人なのかも……。

勇ましく、凛々しく、ときにユーモアたっぷりにサムライを描いた北斎や弟子達。それらが庶民に広がり、尊ばれ、その名残が今のサムライのイメージとして定着しているような気がしました。彼ら絵師達が世の中にもたらした影響は相当なもののはず。

本展に足を運び、躍動感たっぷりに描かれた北斎や門人たちの絵に触れ、江戸時代の人々と同じ目線でサムライを感じてみてはいかがでしょうか。

Information

北斎サムライ画伝

会期:2023年12月14日(木)~2024年2月25日(日)

会場:すみだ北斎美術館(東京都墨田区亀沢2-7-2)

開館時間:9時30分~17時30分(入館は17時まで)

休館日:月曜

※開館:1月2日(火)、1月3日(水)、1月8日(月・祝)、2月12日(月・振休)

※休館:12月29日(金)~1月1日(月・祝)、1月4日(木)、1月9日(火)、2月13日(火)

観覧料:一般1200円、高校生・大学生900円、65歳以上900円、中学生400円、障害者手帳ご呈示の方400円、小学生以下無料

リンク:北斎サムライ画伝 公式サイト

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【展覧会もいいけれど、たまには“おうち鑑賞”もあり?床の間芸術を考える『日本画の棲み家』展が開催中】

東京・六本木にある〈泉屋博古館〉では、『日本画の棲み家 ―「床の間芸術」を考える』と題した特別企画展が、2023年12月17日(日)まで開催されています。

いつもユニークな問い立ての企画展を行う同館。今回も「日本画の棲み家」「床の間芸術を考える」と興味深いテーマで関心をそそります。さて、そのタイトルの心は……?

“明治時代における西洋文化の到来は、絵画を鑑賞する場に地殻変動をもたらしました。特に西洋に倣った展覧会制度の導入は、床の間や座敷を「棲み家」とした日本絵画を展覧会場へと住み替えさせました。その結果、巨大で濃彩な作品が増えるなど、日本絵画は新しい「家」にふさわしい絵画表現へと大きくシフトしていきます。” (公式サイトより引用)

文明開化は、日本絵画の世界にもさまざまに影響をもたらした、という同館。いったいどういうことなのでしょう? どのような作品が並べられ、どのような解釈で楽しめるのか、同館を訪ねてきました。

“取り合わせ”の粋を感じさせる、住友邸宅の床の間を彩った作品

〈泉屋博古館〉は、住友財閥を創業した住友家のコレクションを中心に展示を行う美術館。桁外れの財力を有する財閥だからこそ、収蔵品も桁外れ。訪れるたびにワクワクさせられる美術館のひとつです。

さて、第一章「邸宅の日本画」では、住友家の床の間や座敷を飾った掛物、屏風、衝立、置物などが展示されています。掛物といっても、一般的な床の間には到底納まりきらない巨大さ! 六曲一双という大迫力の屏風にも驚かされます。

寿老人、富士、雁、鶴、竹、梅など、吉祥的画題をモチーフにした掛物が多く、それらと一緒に飾られる香炉や花籠といった工芸品にも“取り合わせ”の意味を持たせ、床の間を彩り、来客を楽しませていたのだとか。

住友家の財力をこれでもかと目の当たりにできる本章、とにかく見ごたえありです!

美術界に大きな議論を巻き起こした「床の間芸術」とは

続く第二章「床映えする日本画」は、明治以降に庶民にも普及した床の間にどのような作品が映えるのか? をテーマにしています。橋本雅邦、富岡鉄斎、さらには洋画家として知られる岸田劉生の軸(チラシ表紙の作品)も展示されています。

「山水画」は室内を山気で満たし、「四季の花鳥画」は室内外の境界を曖昧にし、寿老人などの「吉祥的画題」はハレの日や家族の行事に欠かせないものとして、普及していったようです。

さらに同章では、大正以降に新聞や美術雑誌などで散見されるようになった「床の間芸術」という言葉にも注目。これは「時代遅れの作品」を揶揄する言葉として用いられたそう。

西洋に倣った展覧会が開かれるようになると、描かれる日本絵画は巨大で濃彩な作品に変化。新しい「家」にふさわしい絵画表現にシフトし、「床の間無用論」という言葉も登場したといいます。

一方で、他国には見られない鑑賞機能を持つ床の間の文化的側面を賞賛する声も上がり、竹内栖鳳や河合玉堂などは、展覧会や芸術一辺倒の美術界に警鐘を鳴らし、床の間芸術へ肯定のまなざしを向けていたといいます。

当時、そのような議論が巻き起こっていたとは……。現在の美術界に関係ないとはいえない事象に、とても興味が湧きました。

本展に展示されている日本画はそのような時代のなかで蒐集され、邸宅を飾るための「床の間芸術」として描かれたもの。“柔和”で“吉祥的”な内容の床の間芸術は、やはり日本家屋こそ棲み家としてふさわしいような気もしてきましたが……はたして。

新時代の床の間芸術を考える

第三章では、今を生きる6名の現代作家による「床の間芸術を考える」をテーマにした作品が展示されています。それぞれの解釈で手がけた作品は、新しい視点の床の間への向き合い方を見せてくれます。

純粋なる日本家屋に住まう人は少なくなり、西洋だけでなく多様な文化が入り交じる現代。それらがミックスされることで、また新しい“美”が醸成されることも多々あります。

かつては、床の間にこそふさわしい絵画があり、どちらかといえば洋間に掛物は不釣り合いと感じる人も多かったかもしれません。ですが時代は大きく変わり、床の間の有用・無用を超えた新しい床の間芸術の楽しみ方があるのかもしれない、と今回の展示を鑑賞しながら感じました。

サムライオークションでも、多くの人が古物を生活のなかに取り入れ、愛で、精神的な豊かさにつなげてほしいという願いがあります。それらの古物にふさわしい棲み家とはどのような場所なのか、ふと考えるきっかけになる企画展かもしれません。

Information

日本画の棲み家 ―「床の間芸術」を考える

会期:2023年11月2日(木)~12月17日(日)

会場:泉屋博古館東京(東京都港区六本木1-5-1)

開館時間:11時~18時(入館は17時30分まで)※金曜は19時まで開館(入館は18時30分まで

休館日:月曜

観覧料:一般1000円、高大生600円、中学生以下無料、障害者手帳ご呈示の方は無料

リンク:泉屋博古館東京 公式サイト

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