旧熊本藩主・細川家に伝わる美術品や歴史資料などを所蔵する、東京都文京区の〈永青文庫〉。現在、令和5年度早春展として『中国陶磁の色彩』が開催されています。
本展では、所蔵する漢~清時代の中国陶磁100点以上のなかから、唐三彩、白磁、青磁、五彩、黒釉といった「色」をテーマにした美術品を展示。
展示作品の多くは、永青文庫の設立者である16代当主・細川護立(ほそかわ もりたつ)氏によって蒐集されたもの。それらを通じて、約2000年にわたる中国陶磁の歴史をひも解く展覧会となっています。
入手エピソードも興味深い! 〈永青文庫〉の唐三彩コレクション
入館してまず対面するのは、日常用器や明器(副葬品)として用いられていた「灰陶」や「唐三彩」。展示品には「灰陶加彩馬」「三彩馬」といった馬の俑(副葬する人形)もありました。そのリアルな造形や意匠から、6~8世紀の陶工の高尚な技術力がヒシヒシと伝わってきます。
「唐三彩」の展示スペースには、本展のメインビジュアルにもなっている「三彩宝相華文三足盤」(重要文化財)も。唐時代に技法が確立された多色釉陶器で、蝋ぬきの技法により白い点などを表し、褐釉や緑釉で彩っています。度重なる研究や探求の賜物ともいうべきその発色のよさに驚きます。
解説によると、唐三彩は20世紀初頭、中国の鉄道敷設工事を行うなかで唐三彩を含むさまざまな遺物が発掘されたことをきっかけに、世界中のコレクターに注目され、美術市場を賑わしたのだとか。
欧米に遅れをとりつつ、日本では大正期頃より鑑賞に主眼を置いた「鑑賞陶器」として中国陶磁の人気が高まります。そして、それらの価値をいち早く見出し、蒐集したのが護立氏なのだとか。
本展に展示されている唐三彩の中にも護立氏がコレクションしたものがあり、重要美術品「三彩獅子」はパリの美術商店の下の戸棚に置かれていたものを購入したこと、「三彩花文四葉形四足盤」は少し欠けており、同国で捨てられているも同然だった、という入手に関するエピソードも紹介されています。
また、重要文化財「三彩花弁文盤」について護立氏は「真に唐時代の絢爛たる文化を物語るものとして珍重すべきもの」と述べています。
日本の茶文化に通じる逸品も
続いて「黒釉」の展示スペースへ。点茶法(喫茶法)の広がりと共に、曜変天目、油滴天目(ゆてきてんもく)、禾目天目(のぎめてんもく)などの黒釉茶碗が盛んにつくられたという宋時代。
天目は日本にも渡り、茶の湯を愛する茶人や大名に珍重されたのは多くの人が知るところ。本展でも12~15世紀の中国で作陶された油滴、禾目を含む4点の天目茶碗が展示されています。
ほかにも「白磁」「緑釉」「青磁」「青花」「五彩」などの壺、瓶、鉢、硯屏、合子、筆などが並び、その多彩で緻密で華麗なる中国陶磁の鑑賞は眼福のひとときです。
もうひとつの“みどころ”とは?
本展で見逃せない展示がもうひとつ。近代洋画家・梅原龍三郎氏や、陶芸家・河井寬次郎氏、宇野宗甕氏が、中国陶磁を研究・題材にした作品も紹介されています。
なかでも、護立氏が所蔵する俑「加彩女子」に一目ぼれした梅原龍三郎氏が、懇願してそれを借り、日本画の画材を用いて描いた《唐美人図》は必見。なんと今回は3月3日まで「加彩女子」と並べて展示されています!
さらに同氏は中国陶磁のなかでも五彩が気に入っていたようで、作品の題材にも多く登場させています。本展にも五彩の壺にバラを生けた《薔薇図》が展示されています。
中国の深遠な陶磁の世界と、護立氏の情熱を感じずにはいられない本展。さまざまなエピソードを含めて楽しめる展覧会です。会期は4月14日まで。
Information
令和5年度早春展「中国陶磁の色彩 ―2000 年のいろどり―」
会期:2024年1月13日(土)~4月14日(日)
会場:永青文庫(東京都文京区目白台1-1-1)
開館時間:10時~16時30分(入館は16時まで)
休館日:月曜(2月12日は開館、2月13日は休館)
入館料:一般1000円、シニア(70歳以上)800円、大学・高校生500円
※中学生以下、障害者手帳をご提示の方及びその介助者(1名)は無料
TEL:03-3941-0850
リンク:永青文庫公式サイト