高名な画家によるワンちゃん・ネコちゃんの名画が一堂に会す『犬派?猫派?』展

散歩中に主人の顔を振り返り、振り返り、うれしさを隠せないワンちゃん。名前を呼んでも顔すら上げないのに、あるときはベッタリと甘えてくるネコちゃん。ひとたび家族となれば、人間と同じように愛しく、いなければ寂しさを覚える動物たち。そんな動物への感情は遠い昔から変わらないもののようです。

東京都広尾にある〈山種美術館〉で開催中の『犬派?猫派? -俵屋宗達、竹内栖鳳、藤田嗣治から山口晃まで-』は、17世紀〜現代の画家による、犬もしくは猫(一部鳥も)を題材にした56作品の展覧会。

副題の通り、高名な画家の作品も並びますが、各章には「ワンダフルな犬」「にゃんともかわいい猫」「トリ(最後)は花鳥画」と、洒落を効かせたラフなタイトルが。肩の力を抜いて、顔をほころばせながら楽しめる内容になっています!

「ワンダフルな犬」

展覧会場のトップを飾る作品は、“琳派の祖”と呼ばれる俵屋宗達の《犬図》。ブチ模様の小柄な犬が「早くおいでよ!」といわんばかりに後ろを振り返り、楽しさのあまり飛び跳ねているよう。全身で喜びを表すワンコの姿が愛おしく、宗達はこの絵を描いたのかもしれません。

続く作品は、円山応挙の《雪中狗子図》。観た瞬間「かわいい〜」と目尻が下がること間違いなし。5匹の仔犬のころころまるまるとした体、邪のないつぶらな目、トロンと眠そうな顔。仔犬の愛らしさがそのまま画中に! 犬好きとして知られる応挙。17世紀頃は犬が作品の題材になることは少なかったようですが、応挙は好んでよく仔犬を描き、その絵の愛らしさに当時から人気を博していたのだそう。

そして、応挙に師事した長沢芦雪も仔犬図をたくさん描いたひとり。本展にも3作品が展示されています。そのうちのひとつ《菊花子犬図》がこちら。

かわいさ、爆発。戯れる9匹の子犬の表情も、しぐさも、なんともユーモラスです。きっと芦雪も「かわいや〜、かわいや〜」と目をトロントロンにしながら描いたのではないでしょうか。師である応挙の作品と比べながら楽しむのもおすすめです。

ほかにも、伊藤若冲の作品や、当時珍しかった洋犬(ダックスフントらしき犬)が描かれている《洋犬・遊女図屏風》(作者不詳)、愛犬家であり飼い犬をモデルに多くの絵を描いた川端龍子の作品など、さまざまな画家たちの、さまざまな犬の表現が楽しめます。

「にゃんともかわいい猫」

続く章は猫編。本展の見どころとして上がっているのは、竹内栖鳳の《班猫》です。作品のモデルとなった猫は、旅先の沼津で見かけ、飼い主との交渉の末に自宅に連れて帰ったというエピソードが。栖鳳はこの猫に出会った瞬間、徽宗皇帝の猫の絵を想起し、表現意欲が湧いたのだとか。

ふんわりと描かれた下毛に、写実性を高めていく一本一本の毛描。猫の体温まで感じられるようなリアルさがあります。緑青の瞳もミステリアス。

絢爛さと、ちょっとした異様さを放っていたのは、黒猫、白兎、いくつかの木立(躑躅、枇杷、青桐、紫陽花など)を描いた速水御舟の四曲一双《翠苔緑芝》。琳派作品を意識した大胆な色面と構図にソワソワしてしまうのは私だけ……? なんとも不思議な作品です。御舟はこの絵に対し「もし、無名の作家が残ったとして、この絵だけは面白い絵だと後世いってくれるだろう」と語ったのだそう。

また、「猫に猛獣の面影があるところがよい」と語った藤田嗣治の《Y夫人の肖像》には、ゴージャスなドレスに身を包む女性のそばでゆるりとくつろぐ4匹の猫。そして、即興で描いたという山口晃の《捕鶴圖》には、作戦を立てて鶴を捕獲しようとする擬人化された猫たちの姿が。なにやら楽しげです。

個人的には「猫派」の私ですが、長沢芦雪のガジガジモフモフな仔犬たちにやられ、「犬もいいな……」と気持ちが揺らいでしまった本展。案外、推しを覆す罪深い展覧会かもしれません。会期は7月7日(日)まで!

Information

犬派?猫派?-俵屋宗達、竹内栖鳳、藤田嗣治から山口晃まで-

会期:2024年5月12日(日)~7月7日(日)

会場:山種美術館(東京都渋谷区広尾3-12-36)

開館時間:10時~17時

※入館は16時30分まで

休館日:月曜

観覧料:一般1400円、大学生・高校生1100円、中学生以下無料(付添者の同伴が必要)

※障害者手帳、被爆者健康手帳をご提示の方、およびその介助者(1名)一般1200円

※きもの特典:きものでご来館のお客様は、一般200円引きの料金となります

リンク:

山種美術館「犬派?猫派?」特設サイト