【サムライのおしゃれに“隙”なし!武家文化で育まれた美意識やこだわりを見るコレクション展】

東京・丸の内にある〈静嘉堂文庫美術館〉では、2023年7月30日(日)まで『サムライのおしゃれ ―印籠・刀装具・風俗画―』と題した展覧会が開催されています。

三菱財閥を興した岩崎家が収集した膨大なる古美術コレクションの中から、武家文化の日常生活のなかで育まれたサムライの美しい装身具、工芸品、風俗画などを精選して展示。国宝や重要文化財をふくめた珠玉の品が並ぶほか、「サムライのおしゃれ」というユニークなテーマでも話題を呼んでいます。

サムライたちは日々どのようなおしゃれを楽しんでいたのでしょうか? 粋なファッションに触れるべく、お邪魔してきました。

■第1章 サムライのおしゃれ

4つの章に分かれている本展。まず第1章の展示ルームに足を踏み入れると、明治初期に複製された『蒙古襲来絵巻 摸本 巻二』が展示されています。

鎌倉時代に起こったモンゴル帝国による日本侵攻。その際の、筑前国・生の松原に築かれた石築地の前を進む竹崎季長(たけさき・すえなが)の一党が描かれた絵巻です。

武士集団が身につけている甲冑は色とりどり。特に季長の甲冑は威風堂々たる朱の武具で、馬の鞍にはなんと「虎の毛皮」が敷かれています。トップに立つ者は、自身の甲冑だけでなく馬の装具にも余念がないのですね。

また同章では、武士であり、政治家・実業家としても知られる後藤象二郎が、英国ヴィクトリア女王から拝領した「サーベル」も初公開されています。

1868年に明治天皇に謁見予定の英国公使ハリー・パークスらは、2人の攘夷派志士に襲撃を受けますが、護衛を担当した土佐藩士・後藤象二郎と、薩摩藩士・中井弘は、志士らを討ち取ります。その感謝の印として英国から贈られたのがこのサーベルです。

長年行方不明とされていましたが、近年静嘉堂内で発見。刀身の中央には後藤象二郎の名前と、事件の日付も刻まれています。

■第2章 将軍・大名が好んだ印籠

岩崎弥之助がコレクションした印籠40点がずらりと並ぶ第2章。四季の自然、花鳥風月、故事人物などのモチーフを、蒔絵、彫金、螺鈿、象牙、奇石、堆朱などによって精緻に盛り込んだ印籠は溜息ものでした。

印籠に付随する根付との組み合わせによる世界感も見ものです。風流なもの、滑稽でおかしみのあるもの……きっとそのコーディネートにもサムライの“粋”が問われたのでしょう。

大名や将軍、さらには天皇まで蒐集を楽しんだという印籠。お抱えの印籠蒔絵師までいたというから、相当な熱の入れようです。

ちなみに、印籠のそもそもの目的は「常備薬を入れるケース」。一見すればなんてことない小物ですが、いつしかおしゃれを競い合うおしゃれ必需品へ変化したという、ものの価値の変容にも不思議なおもしろさを感じた章でした。

■あの『曜変天目』の展示も! 国宝や重要文化財も楽しめる第3・4章

さまざまな衣装をまとった市井の人々が行きかう『四条河原遊楽図屏風』が展示されている第3章。この二曲一双には、ファッションリーダーであった歌舞伎者、大小の拵(こしらえ)を下げる武士、踊る遊女たち、若衆など、280人前後が描かれているといいます。眺めていると、人々のざわめきが聞こえてくるよう。

第4章では、重要文化財の『羯鼓催花紅葉賀図密陀絵屏風』や、世界に3椀しか存在しないという国宝『曜変天目』、岩崎弥之助がロンドンを訪問した際に購入したという『銀懐中時計』などの展示も。

今回の展示で感じたのは、サムライのおしゃれに“隙”なし、ということ。服装、髪型、拵、小物など、細部の細部までコーディネートに余念がない武士たちのこだわりを見せつけられました。

ちょっとユニークなテーマの本展、ぜひ足を運んでみては?

Information

『サムライのおしゃれ ―印籠・刀装具・風俗画―』

会場:静嘉堂文庫美術館(東京都千代田区丸の内2-1-1 明治生命館1F)

会期:2023年6月17日(土)~7月30日(日)

休館日:月曜日、7月18日(火)(7月17日(祝)は開館)

開館時間:10時~17時(入館は16時30分まで)、金曜は18時(入館は17時30分)まで

観覧料:一般1500円、大高生1000円、障がい者手帳をお持ちの方(同伴者1名〈無料〉を含む)700円、中学生以下 無料 TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)

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【フランシスコ・ゴヤ、月岡芳年、浜田知明などが向き合ってきた「出来事との距離」】

現在『出来事との距離 ―描かれたニュース・戦争・日常』展が開催されている、東京都町田市にある〈町田市立国際版画美術館〉を訪ねました。

本展では、フランシスコ・ゴヤ、月岡芳年、四代歌川国政、浜田知明など、国も活躍した時代もさまざまな作家の作品が並びます。

これらの作家たちに共通するのは、作品から伺える「出来事との距離」。本展は1~5章でテーマが分けられ、それぞれにとても興味深いものでした。いくつか紹介していきます!

■第1章「ゴヤが描いた戦争」

フランシスコ・ゴヤは、宮廷画家として活躍する一方で、社会風刺画も手掛けたスペインの巨匠です。

本章では、フランス軍によるスペイン侵攻の惨状を1810~1820年に渡ってエッチングの手法で描いた『戦争の惨禍』を展示。政治体制の転換期にゴヤが見た不条理な戦争のありさまが、生々しく描かれていました。

さて、そんなゴヤの作品のどこに「距離」があるのか? それは『戦争の惨禍』という版画集が1863年に出版されたこと。ゴヤが没して35年後にようやく、当時の出来事として公にされたことになります。

版画集の出版時、もしゴヤが生きていたとしたら。何を思い、どんな気持ちで出版日を迎えたでしょうか。

第2章「戦地との距離」

版画家・彫刻家として、さまざまな名作を世に残した浜田知明。本展では、日本軍に入隊し、中国で軍務を行った際に観た風景、戦争の残酷さ、野蛮さ、愚劣さを訴えるエッチング作品が多く展示されています。

なかには目を覆いたくなるような信じがたい惨状の版画も……。また、一部の指導者が世界を操るという、核と戦争の構造を見抜いた浜田知明の代表作『ボタン(B)』も展示されています。

さらに、藤森静雄、前川千帆、畦地梅太郎、北岡文雄などが戦時中に手掛けた中国、台湾、朝鮮に関連する作品も。戦地との、物理的、精神的、嫌悪的、友好的な「距離」が本章では示されていました。

第3章「浮世絵と報道」

彰義隊と官軍の闘いを歴史上の人物に当てはめて描いた、浮世絵師・月岡芳年による『魁題百撰相(かいだいひゃくせんそう)』をはじめ、さまざまな錦絵がずらりと並ぶ本章も見ごたえたっぷりです。

ニュースや事件を直接的に報道することが禁じられていた江戸時代。絵師たちは事件を故事や古典になぞり、表現していたといいます。

また、噂が誇張・美化されて報道された「西南戦争錦絵」も。薩摩軍に女隊があるという噂が流れると、ある種の「美人画」として描かれ、人々の関心を集めたのだとか。

幕末から明治にかけての報道の特殊なあり方を目の当たりにした章でした。

昭和・平成・令和の時代の報道から得たインスピレーション

第4章では、昭和から平成にかけて活躍したアーティストの滑稽でユーモラスな作品が並ぶ「ニュースに向き合うアイロニー」、第5章の「若手アーティストの作品から」は、展覧会テーマと響き合う制作を行う令和時代の若手作家4名の作品が紹介されています。

第5章で特集されている松元悠さんは、法廷画家としても活動するアーティスト。さらには、当事者の追体験を試みるために事件現場に足を運び、当事者が見ていたかもしれない風景と、マスメディアやSNSで得た素材を継ぎ接ぎした作品を制作しています。

ほかにも、SNSなどから発信される情報にインスピレーションを得て、情報との距離をそこはかとなく感じさせる若手作家の作品を鑑賞していると、冷やかさ、滑稽さ、不確かさといったさまざまな情報が頭の中を駆け巡るようでした。

時代によって報道のあり方はこんなにも違うのか……と興味深く楽しめる本展。高名な作家の作品がさまざまに鑑賞できるのも魅力です。

日常にあふれる報道と自身との距離はどれほどでしょうか。それは本当に確かな情報でしょうか。また自分事に思える報道とそうでない情報の違いとは。そんなことを改めて考えるきっかけをもらった展覧会でした。

Information

『出来事との距離 ー描かれたニュース・戦争・日常』

会場:町田市立国際版画美術館(東京都町田市原町田4-28-1)

会期:6月3日(土)〜7月17日(月・祝) 

※月曜休館、ただし最終日7月17日(月・祝)は開館

開館時間:平日10時~17時、土・日・祝日10時~17時30分(入場は閉館30分前まで)

観覧料:一般800円、大・高生400円、中学生以下無料

TEL:042-726-2771

サイト:町田市立国際版画美術館

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【NHK朝ドラ『らんまん』のモデル・牧野富太郎の書斎が再現された〈牧野記念庭園〉へ】

“植物分類学の父”と呼ばれる植物学者・牧野富太郎博士の生涯をユーモラスに描く、NHK朝の連続テレビ小説『らんまん』を毎朝楽しみにしている人も多いのではないでしょうか。かくいう私もそのひとり。

ドラマのモデルとなった牧野博士は、大正15年~昭和32年に逝去するまでの約30年間、東京都練馬区の大泉で過ごしました。その居住地が〈練馬区立 牧野記念庭園〉として無料公開されているのをご存じでしょうか?

博士愛用のさまざまな道具、執筆した書物、描いた植物図などを展示した「常設展示室」や、年に3~4回展示内容を入れ替える「企画展示室」と、博士の遺品や関連資料が展示された記念館になっています。

生涯のなかで発見・命名した植物は1500種にも及ぶという、日本の植物分類学の礎を築いた博士の偉業に触れたいと、〈牧野記念庭園〉にお邪魔してきました。

門をくぐると、さまざまな植物が青々と茂った庭園が広がっています。高・中・低木、さまざまな山野草、シダ類が植栽され、各植物には和名の名札がつけられています。

研究用にと設けられたスペースなのか、3画に分けられた見本園も。ここにはドラマのオープニング曲の一番最初に映し出される黄色い花「ジョウロウホトトギス」が植えられていました。

現在はまだ蕾もついていませんが、10月の開花期に訪れれば、しおらしく俯く貴婦人のような黄色い花に出会えるかもしれません。

園内には博士が名付けた植物も多々。彼の研究を支えた妻・壽衛(すえ)さんの名をとった「スエコザサ」も、博士が詠んだ句と一緒に植栽されています。

さて、庭園をぐるりと巡ったら「常設展示室」へ。ここには、博士の生涯とその解説、愛用していたさまざまな道具類が展示されています。

19歳で初めて上京した際に買い求めた顕微鏡も。ドラマでも描かれていましたが、実話だったんですね!

画力にも恵まれていた博士。植物画を描く際に使用していた絵筆も展示されています。どうやら蒔絵職人が使う極細筆「根朱筆(ねじふで)」を愛用していた様子。

さらに、博士の落款印も展示されていました。自身で作印したもののほか、数多くの書画を残した僧侶・一路居士(いちろこじ)による印も。

下の写真の一番右にある、ひらがなの「の」をぐるぐる巻きにしたような印、ちょっと面白いですよね。どうやら「巻いた“の” = 牧野」という洒落をきかせた印なのだとか。博士のお茶目っぷりがうかがえます。

同園には、博士が晩年に使っていた書斎と書庫の一部が「鞘堂」として残されています。ここに当時の「書斎」を再現するプロジェクトが進められてきましたが、2023年4月に一般公開されました。

4万5千冊もの書籍を所有していたという博士。当時を模した書斎には、足の踏み場もないほどに蔵書が積み上げられています。愛用の電気スタンド、ガラスの「活かし箱」、双眼鏡などが置かれ、晩年の博士が研究に勤しむ臨場感が立ち現れるようです。

今話題のスポットとあって、多くの来園者でにぎわっていた〈牧野記念庭園〉。植物好きな人、歴史好きな人、古物好きな人と、楽しみ方もさまざまです。ぜひお出かけしてみてはいかがでしょうか?

Information

練馬区立 牧野記念庭園

場所:東京都練馬区大泉6‐34‐4

開館時間:9時~17時

休館日:火曜、年末年始

入館料:無料

TEL:03‐6904‐6403

サイト:練馬区立 牧野記念庭園

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【「竹久夢二」の多才な表現に触れる!大正ロマンの「描き文字」展】

東京大学のほど近く、東京都文京区に〈竹久夢二美術館〉があるのをご存じでしょうか。弁護士・鹿野琢見(1919~2009年)によって設立された私立美術館です。

創設者である鹿野琢見は、美少女・美少年・美人画で一世を風靡した高畠華宵(1888~1966年)の作品に魅了され、所有する多くのコレクションを公開すべく、1984年に〈弥生美術館〉を創設。

また竹久夢二のファンでもあり、多くの夢二コレクションも所蔵していました。1990年に〈弥生美術館〉の同敷地に〈竹久夢二美術館〉を創設しました。

同館では年に4回、さまざまな切り口による夢二の企画展が開催されています。2023年4月1日(土)~6月25日(日)の期間、『竹久夢二 描き文字のデザイン ―大正ロマンのハンドレタリング―』と題した展覧会を開催中。

グラフィック・デザイナーとしても才能を発揮した夢二の、手描きによるレタリング(デザインされた文字)に焦点を当てた本展。ポスター、雑誌や楽譜の表紙、書籍の装幀などに描かれた独創的なフォントがさまざまに紹介されているとのことで、お邪魔してきました。

まずはこちら、夢二が表紙を多く手掛けた「セノオ楽譜」です。

こちらの楽譜は、大正時代に設立された〈セノオ音楽出版社〉が、古今東西の名曲を楽譜に落とし、出版したもの。当時は音楽に親しむ手段として、「ピース楽譜」と呼ばれる小曲1編だけを収めた楽譜が多く出版されていたようです。

それらの楽譜の表紙の多くを手掛けていたのが、夢二だったのだとか。

文字の太さ、形状、文字の強弱も、実にバリエーション豊富。そのフォントに優しさや慰めを感じさせるものもあれば、強さや刺々しさを感じさせるものも。文字だけで、さまざまな心象を表現できる夢二の匠さに驚かされます。

また、「涙」「鳥」「花」「月」「日」といった文字の図案化のユニークさ。特に「花」は美しさのなかに刺々しさも含まれ、「花かそもなれ」の歌詞にも通じるものが。

「歌」という漢字ひとつにしても、こんなにも表現が可能とは! 見ているだけで楽しくなってきます。

「春」という描き文字にもフォーカス。四季のなかでは特に「春」を好み、その季節特有の感傷を、絵画や詩歌などで表現していたという夢二。暖かな季節ということもあって、赤系の色づかいも多い様子。

また、書籍の装幀も多く手掛けていた夢二の、いくつかの作品も展示されていました。その中で、個人的に好みだったのが、こちらの『凧』。

表紙をめいっぱい埋めつくす「凧」の字のダイナミックさ。一瞬、幾何学模様のような装飾かなと思ったのですが、よくよく眺めているなかで「ハッ…!」と気づかされるその意匠。この潔さに心掴まれました。

ほかにも『恋愛秘語』の文字のおもしろさと、それらを分解して装飾にした表紙もかっこいい。

さまざまな夢二の描き文字に触れつつ、直筆の書画、恋人や知人などに宛てた手紙など、夢二の多彩な文字の表現を楽しめる展示になっています。

また、館内で続く〈弥生美術館〉には、創設者・鹿野琢見がコレクションした、美人画の巨匠・高畠華宵の作品展示も。

「夢二式美人」という言葉が確立されるほど、美人画で有名な竹久夢二ですが、彼の意匠は描き文字をはじめ、ありとあらゆる部分で表現されていることを発見。改めて、彼の多才さを思い知る展覧会でした。

〈竹久夢二美術館〉と〈弥生美術館〉が併設され、それぞれの企画展と常設展を同時に鑑賞できる同館。現在は、1980~90年代に活躍した伝説のファッション・イラストレーター『森本美由紀展』も6月25日(日)まで開催されています。

年代を超えたさまざまなアーティストの作品を一度に楽しめる同館を、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

Information

『竹久夢二 描き文字のデザイン ―大正ロマンのハンドレタリング―』

場所:弥生美術館・竹久夢二美術館(東京都文京区弥生2‐4‐3)

会期:2023年4月1日(土)~6月25日(日)

開館時間:10時~17時(入館は4時30分まで)

休館日:月曜、展示替え期間中、年末年始

入館料:一般1000円/大・高生900円/中・小生500円

※2つの美術館は同じ建物内で見学ができ、上記料金で2館あわせてご覧いただけます

TEL:03‐5689‐0462

サイト:弥生美術館・竹久夢二美術館 サイトはこちら

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【圧倒的迫力に酔いしれる《東福寺展》】

こんにちは!《美術品・骨董品専門のオークションサイト》サムライオークションスタッフの井戸です。

先日、東京国立博物館にて開催されていた【東福寺展】に遊びに行ってきました。

「圧倒的スケール」「すべてが規格外」

これらのキャッチコピーだけでワクワクが止まりません。

本展での「圧倒的スケール」の象徴が釈迦如来 四天王像や仏手による木彫りの像たちです。広大さもさることながら彫りの細かさ、表情、衣類のしわ、指先のゴツさなど細部の細部にまでこだわり抜かれたクオリティに圧倒されました。仏手以外は撮影NGな為、写真はありませんが、四天王像などの目は砡でしょうか。命が吹き込まれており、力強い生命力を感じます。

焼け残りの仏手に至っては2m17cmもあるとのこと。手だけでこのサイズということは本像はどれだけのサイズだったのでしょうか…開いた口が塞がらないとはまさにこういうことを言うんだなと。

さて、順路は前後しますが、本展のもう1つの見どころが吉山明兆の五百羅漢図。ここは「すべてが規格外」の象徴と私は感じました。

明兆の羅漢図は全部で50幅。この時点で規格外です。更に14年もの歳月を掛け、総勢70人もの職人による大修繕は代え難い苦労があったことでしょう。

描かれている羅漢たちの神秘な表現や極彩色、毛線の細さの他に、みんなでお風呂に行ったり、剃髪をしたりと親しみを覚える描写が多数でとても楽しめます。中には漫画風な解説を入れたユニークな運営側の施策なんかもあったりしますよ。

本展は第1会場と第2会場で別れていますが、1会場辺り少なくとも2時間は滞在していられる程充実した内容です。

また、まだ春ではありますが、東福寺の絶景スポット通天橋を紅葉の景色で再現したフォトスポットも展開しています。夏を通り越して秋の装いですが、10月からの京都会場ではジャストタイミングで開催されますので、西にお住いの方は是非【東福寺展】に足を運んでみてください。

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【まだまだ“お花見”を楽しみたい方へ!「桜」がテーマの日本画展『桜花賞展』開催中。5月14日まで】

関東ではすっかり桜の花が散り、新緑の季節らしい風景が広がってきています。東北や北海道辺りではまだ桜が楽しめる頃でしょうか。

ほんのわずかな期間のお楽しみである桜の開花。「満開の桜をじっくり楽しむ時間が持てなかった」という方や、名残惜しさで「もっと桜を楽しみたかった」という方もいるのでは?

そんな方に朗報です。東京都目黒にある〈郷さくら美術館〉では、桜を主題とした展覧会『第10回 郷さくら美術館 桜花賞展』が、2023年5月14日(日)まで開催されています。

本展は、今後の活躍が期待される日本画家30名に「桜」をテーマにした作品の制作を依頼し、それらを一同に展示するコンペティション形式の展覧会。作品のなかから大賞、優秀賞、奨励賞が選出されています。

さらに、同館が所蔵する高名な日本画家の桜屏風9点を展示した『桜百景vol.30』も同時開催。併せて39点もの見ごたえたっぷりの桜作品が並び、改めて「お花見」を楽しむような内容になっています。

本展は3フロアに分けて展示が行われており、1階には『桜百景vol.30』の9作品が。 入館してすぐ目に飛び込んできたのは、日本画家・中島千波さんの大作『櫻雲の目黒川』。四曲一隻の屏風いっぱいに満開の桜が描かれています。

目黒川にかかる橋の欄干の緋、川の両側に植栽された緑、晴天の青、どこまでも続くような奥行のある桜色のグラデーション。作品に近づいてみると、岩絵具で描かれる花びら一枚一枚の玻璃のような透明感が、まるで本物の花びらのよう。日本画ならではの繊細な奥ゆかしさに小さな感動を覚えました。また、桜というモチーフを日本画で描くことの意義を、この作品に見た気がしました。

続いて、福島県の「三春滝桜」をモチーフにした、牧進さん、平松礼二さん、林潤一さんの大屏風3点が並び、その迫力たるや! 今まさに満開の桜に立ち合えているような感動をもたらしてくれます。

ほかにも日本画壇を代表する画家の作品が1階を埋め尽くし、もうこのフロアだけでもかなり心満たされる思いです。

さて、2~3階には、本企画の大テーマである「桜花賞展」の作品が並びます。

満開の夜桜をダイナミックに描く人、薄曇りに咲く桜を淡く儚く境界線も曖昧に描く人、葉桜に美しさを見出す人、神話にインスピレーションを得た桜の画を描く人、歌舞伎座に舞う桜吹雪を描く人――そこに並ぶ作品は、雰囲気も、技法も、解釈もさまざま。

今回のコンペティションで大賞を受賞したのは、1997年生まれ・滋賀県出身の工藤彩さん。『桜の間』と名づけられた作品のモチーフは、枝をしならせるような満開の桜ではなく、太い幹にひっそりと顔をのぞかせる数輪の花。

樹齢を重ねた古木でしょうか。ごつごつとした老齢の木肌に芽吹いた新しい命。苔や蔦などのさまざまな生き物たちの共生の場。見上げてばかりの人の目には映らない、静寂のなかのたくましい生は、美しい“詩”のように感じ、心打たれました。

どれも魅力的な作品ばかりですが、個人的にすてきだなと感じた作品はこちら。明壁美幸さんの『よろこびが咲き渡る』です。

福島県白河市の南湖公園にあるベニシダレを描いたという作品。薄曇りのある日、いつもよりも少し温まった風に春の到来を肌身で感じる。そんな喜びをこの作品で思い返し、見ているだけでワクワクした気持ちになりました。

また、小俣花名さんの『旅立ちの日』は、中学生の頃に亡くなった父との記憶を描いた作品。手毬のようにポンポンと咲く桜や、幼い頃の体験や思い出が曼荼羅のような緻密さで描かれ、ほかの作品とは違った趣きのユニークさが印象的でした。

さまざまな角度から、さまざまな構図で、それぞれの思いを託し、描かれた30の桜作品。日本人にとっての桜の重要性、必要性などを改めて思うような、そんな展覧会でした。

今回の展覧会を行う〈郷さくら美術館〉は、昭和以降の生まれの日本画家の作品を中心にコレクションし、現代日本画の魅力に触れる場として設立された美術館です。活躍中の日本画家の支援、新たな才能の発掘・育成にも取り組んでいます。

今回の『桜花賞展』以外にも、毎回テーマを設けたコレクション展が年に4・5回開催されています。同館が誇る珠玉の日本画コレクションを目にし、心豊かな時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

Information

第10回 郷さくら美術館 桜花賞展

場所:郷さくら美術館(東京都目黒区上目黒1-7-13)

会期:2023年3月7日(火)~5月14日(日)

開館時間:10時~17時(最終入館16時30分)

休館日:月曜

TEL:03-3496-1771

サイト:「郷さくら美術館」HPはこちら

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【「渋沢栄一」ゆかりの施設に有り!今昔を自由自在に行き来する「山口晃」作品〈バッタリ出合った名画シリーズvol.1〉】

出かけた先で、たまたま大好きな作家の作品に出合うこと、ありませんか? 「ここに、こんな名画が⁉」と、驚きとともにしばらく鑑賞し、なんだかホクホクした気分になったり。近くを訪れたら、つい立ち寄るスポットになっていたりして。

今回は、サムライオークション・スタッフが個人的にバッタリ出合い、つい足を止めて見入ってしまった、弊社独自の視点による「名画」をご紹介します。

その作品とは、山口晃さんの「養育院幾星霜之圖」(2013年)。飾られているのは、東京都板橋区にある〈東京都健康長寿医療センター〉の1階。エレベーター前の広々とした空間で、やさしく淡い色彩ながらも、威風堂々とした存在感を放っています。

山口晃さんは、日本の現代美術家、現代浮世絵師。大和絵、浮世絵、鳥瞰図、合戦図など、日本古来の絵画様式を油彩で描くなど、古くて新しい視点と、じつにユーモラスで心くすぐる作品を手がける画家です。

2019年のNHK大河ドラマ「いだてん 〜東京オリムピック噺〜」のオープニング・タイトルバックを担当したことでも話題になり、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

そんな山口さんの原画作品を、こんなにも間近で見られるとは! たまたま病院を訪れて、ふいにこの大作と出合ったときは、胸が高鳴りました。

横幅2m以上はあるであろうキャンバスには、昔ながらの長屋や西洋様式の建物、そのなかで過ごす人々の姿が描かれています。丁髷に着物姿の人、洋装の人、白衣や作務衣を着た医師らしき人や看護師など、過去と現代が融合したような世界観。

じつはこちら、〈東京都健康長寿医療センター〉と、その前身である〈養育院〉を、歴史の年表と共に描いた作品になっています。

明治5年、救貧施設として本郷に開設された〈養育院〉は、神田和泉町、本所長岡町、上野護国院跡、大塚辻町、現在の板橋と、都内あちこちに拠点を移してきました。その変遷が絵と文章で描かれています。

「ヤレヤレ マタ移動ダ」と引っ越しをする人物のボヤキ、昭和45年11月に提供されていた食事の献立内容も。山口さんの描くモチーフや視点がなんとも面白く、ついニンマリしてしまいます。

ところで、この作品のモチーフである〈養育院〉は、かの渋沢栄一さんが大きく尽力した施設。養育院開設の7年後には院長に就任し、半世紀以上に渡って同院の維持・発展に貢献したといいます。

それらの功績を示すべく、〈東京都健康長寿医療センター〉の2階には「渋沢記念コーナー」が設置されています。渋沢さんによる書や手紙、書籍や資料も多々。〈養育院〉の歴史、関わった人物、医療・福祉の発展の経緯などを知ることができ、もはやひとつの資料館。

山口さんの作品とあわせて覗いてみると、日本における医療や福祉の起こりや、その変遷など、興味深く感じられるはずです。

そして、「渋沢記念コーナー」には小さな図書室もあり、病院を利用する人に向けてさまざまな本の貸出を行っているようです。

さて。 話は山口さんの作品に戻り、絵画の以下の部分を見て、もしかしたら……と思っていたことがありました。〈東京都健康長寿医療センター〉の1階にはカフェがあるんです。

病院を出て「やっぱり!」と確信。絵画には現建物とその内部が描かれているのでした。

この円柱部分の1階はカフェ。そしてさきほど紹介した「渋沢記念コーナー」と小さな図書室はこの2階にあります。リアルとイマジネーション、現在と過去とを自由自在に行き来する山口さんの作品に、改めてノックアウトされてしまいました。

〈東京都健康長寿医療センター〉という場所柄、入院されている方々、そのご家族や関係者などを、クスッと笑顔にさせているであろう山口さんの「養育院幾星霜之圖」。病院を訪れる機会はないに越したことはありませんが、もしも訪ねる際は、本作品を探してみてはいかがでしょうか。

Information

地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター

東京都板橋区栄町35番2号

※病院という場所柄、作品鑑賞のためだけに訪れるのはご遠慮ください。

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【7つの魂を解き放つ、杜昆さんの個展「七魄」〈ミヅマアートギャラリー〉にて開催中】

日本及びアジア圏における独自の感性を持ったアーティストを発掘・支援・紹介する〈ミヅマアートギャラリー〉。1994年に東京・青山にギャラリーを開いて以降、2008年に北京に、2012年にはシンガポールにも開廊。近年はアートフェアにも積極的に参加し、国際的に活躍する作家を多数輩出しています。

現在、新宿区に置かれた〈ミヅマアートギャラリー〉では、2023年4月8日(土)まで、中国人アーティスト・杜昆(Dù kūn/ドゥ クン)さんの個展「七魄」が開催されています。

4歳の頃から絵を描き始め、北京の中央美術学院油絵学科を卒業。現在は北京を活動拠点とし、独創的で卓越した技法でその名を知られる、国際的なアーティストです。

同ギャラリーのサイトで知った杜昆さんの個展。そこに掲載されている作品画像は、一見すると中国の伝統的な山水画。でも、なにか底知れぬ特異さがモニター越しにも感じられ、どんな作品に出合えるのかワクワクしながら個展を訪ねました。

そして、実際にギャラリーに足を踏み入れた瞬間、なにか時間が止まったような、精神的というのか、信仰的というのか、そこに漂う空気さえも少し緊張しているような雰囲気が、会場を包んでいました。

展示されているのは、数メートルにおよぶ巻物作品や、軸の14点。そして、ギャラリー中央にはバネや金属棒などがさまざまにつけられた奇妙な木箱。

おもに正絹に墨と岩絵具によって描かれた風景画が、それぞれ美しく表具されています。モチーフは、霞む仙境や渓山、港に停泊する船、荒波を縫う帆船、静寂の霊廟や寺院、暗雲と龍など。その幽玄な世界は緻密な筆致で見事に描かれ、作品を眺めるのにも思わず息を潜めてしまうほど。

ギャラリーのスタッフの方から「こちらの映像を見ていただくと、作品の制作について理解が深まります」と案内され、映像が流れる部屋へ。

モニターには杜昆さんと思われる人が、あのギャラリー中央に置かれていた木箱を操って音を奏でています。ということは、あの箱は「楽器」!?

そして、この映像を見て気づいたのが、今回展示されている作品は、古来の山水画の技法を踏襲したものではないということ。むしろ、まったく新しいアイデアと手法で描かれています。

下の写真の「蝉噪」と書された巻物作品を見て、なにかしらの既視感を抱く人がいるでしょうか?

たとえば、心電図のパルス信号。なにかの実験で示された波形。そんなイメージを持つ人も多いはず。

じつは杜昆さんの作品は、彼自身が作曲し、奏でた音楽を“音波”として視覚化し、その音波を風景に当て込み、画を描いているのです。

美術学院在学中にロックミュージシャンとしてプロデビューした杜昆さん。アーティストとして音楽と絵画のふたつの要素をいかに結合できるかを求め続けてきたといいます。その到達点として、音楽を視覚的に作品に落とし込む風景画シリーズが誕生したのだとか。

そして、本展にむけてオリジナルの楽器「Seven Souls」を設計・製作。それがギャラリー中央に配置された木箱です。

縦バネ、伸縮自在のバネ、鋼の棒、カリンバ、小古筝、テルミン、カホンという7種の楽器がこの箱に融合されています。この「Seven Souls」を音源とし、そこから発せられる音楽的要素を音の波に変換し、巻物上に描いています。

本展タイトル「七魄」は、日本語に訳すと「7つのタマシイ」。道教の魂と精神の解釈である「魂魄(Soul/Hún pò)」をコンセプトに、陽のエネルギーに属する3つの「魂」と、陰の側に属する7つの「魄」をこの楽器に宿し、演奏することで、閉じ込められた「魂」が解き放たれる、と杜昆さんは「作家ステートメント」に記しています。

つまり、今回展示されている作品は、この「Seven Souls」という楽器で演奏された14の音楽が変換された作品であり、それぞれが魂の開放の試みであるということ。なんだか深遠な世界……。

杜昆さんは1982年生まれ。その卓越した画力、技法、独創的な視点は、今後も深く掘り下げられ、今後ますます世界的に名を轟かせる存在になるのではないでしょうか。

Information

杜昆「七魄」

場所:ミヅマアートギャラリー(東京都新宿区市谷田町3-13 神楽ビル2F)

会期:2023年3月8日(水)~4月8日(土)

休廊日:日・月曜、祝日

時間:12時~18時

観覧料:無料

TEL:03-3268-2500 リンク:ミヅマアートギャラリー

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【文房清玩の目利き〈百八研齋〉渡邉久雄さんを訪ねて】

2月某日、〈百八研齋〉の渡邉久雄さんを訪ねました。

「文房清玩(注)」の目利きとして知られる渡邉さん。15歳から奉公していた浅草の書道用品専門店〈宝研堂〉で古硯と出合い、見たことのない色、姿形、彫刻などに魅了されたといいます。以降、硯、筆、墨、印材など、文房にまつわる多くの名品・珍品を蒐集。定年までの50年間、公私共に文房清玩と歩んできました。

文房へ向けられた情熱は退職後もなお冷めやらず、むしろ渡邉さんの“人生”ともいうべき大趣味に。膨大なコレクションを自宅の書斎に展示し、屋号を〈百八研齋〉と定め、文房の愛好家へとひらいてきました。さらに、東京都葛飾区立石に店舗を構え、多くの人に文房清玩の魅力を発信しています。

(注:文房清玩とは、筆墨硯紙といった文房四宝に加え、水差し、硯屏、文鎮、印材など、中国の文人が賞玩した品々のこと)

今回、店舗だけでなく、自宅の書斎兼ギャラリーに通していただき、渡邉さんのさまざまなコレクションを拝見。「すばらしいものを、数多く見るということが大切なんです」と、書斎の片隅から、奥の倉庫から、2階から、何度も部屋を出入りしては、数多くの名品を広げてくださいました。

そのうちのひとつがこちら。1970年代に彫られた、端渓石の「雲龍有眼硯」です。

比較的年数の若い、縦横30センチ程の大ぶりな硯ですが、龍の口元、爪、鱗に至るまで妥協など一切ない、ミリ単位の緻密な彫り。触れるのが怖いほどです。

「私もこの硯を見たときは、鳥肌が立ちました」と渡邉さん。

彫りの凄まじさもさることながら、突然表れる石眼(石の紋様)を、なぜこのように自然な形でモチーフに含め活かすことができるのか……手がけた職人の技術力の高さと、圧倒的な感性に驚愕しっぱなしの作品でした。

中国へ何度も足を運び、硯の産地を訪ね、現地の人とさまざまな交友関係を築いてきた渡邉さん。その審美眼と情熱を認められているからこそ入手できた貴重な品も。

こちらは安徽省の歙州硯(きゅうじゅうけん)の産地を訪れた際に譲り受けた「歙州硯石紋三十種」。世界に2点のみ存在する、貴重な資料です。

硯のほかにも、印材、墨、文化大革命前につくられたという入手困難な毛筆、中国の吉祥文様が描かれた蝋箋など、姿の美しい品々がずらり。

できるならば、ひとつひとつを時間をかけてじっくり眺めて過ごしたい……。そんな欲望をふつふつと湧かせる書斎は、もはや美術館にも勝るとも劣らない、唯一無二の場所だと感じました。

渡邉さんの活動は、中国のすばらしき品々の蒐集だけではありません。日本の文房にまつわる作家の偉業を後世に伝えていきたいと、趣向を凝らした資料制作にも力を入れています。

下の写真は、近代日本の篆刻家・中村蘭台、二代目蘭台秋をはじめ、大正・昭和期に活動した約60名の印人の篆刻作品をまとめた『百八研齋蔵印選』。約20年かけて印を100点ほど集め、篆刻印、側款、画をつけ、8巻にもなる資料を制作しました。

また、現在取り組んでいるのは、明治期に紀州の墨づくりを復興させ、多くの銘墨を残した鈴木梅仙の「梅仙墨」の資料制作。数年をかけて20点ほど蒐集し、『百八研齋蔵印選』とは趣向を変えた資料づくりを進めているのだとか。

希少で貴重な品をひとつでも多く後世に残し、文房清玩の文化や魅力を永続的に伝えていきたい、というのが渡邉さんの切なる願い。「どうか譲ってほしい」と申し出る客人もいるようですが、一度手放せば二度と手に入れることは不可能に近いものばかり。だからこそ手放せない、といいます。

そして、若い人にこそ、これらのコレクションを見て、触って欲しいという渡邉さん。

「今は硯も墨も売れなくなっている時代。筆の職人さんなんかは年々少なくなっています。でも、こういった姿形の美しいものがたくさんあるということを、若い人たちにも知ってもらって、たくさん見て、目を肥やして、文房清玩の世界に興味を持ってもらいたい。文化を繋いでいってもらいたい。若い人にこそ、間近で触れられる資料として、どんどん見せていきたいんです」

年内には渡邉さんが所蔵する108点のコレクションを紹介する書籍を上梓する予定。さらに今後、個展の開催も視野に入れているのだとか。

日本の文房界において大きな偉業と名を残すことは間違いない渡邉さん。これからの活動にも注目必至です。

Information

百八研齋

住所:東京都葛飾区東立石3-25-14

TEL:03‐5875‐7590

営業時間:10時~18時(日曜は17時まで)

定休日:月曜、祝日

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【桃の節句の「ひな飾り」を、骨董やアンティーク雑貨で楽しむ】

3月3日の「桃の節句」も、間近です。

この時期になると、旧家では代々受け継ぐ「七段飾り」や「御殿飾り」といったひな飾りを出し、眺めて楽しむご家庭もあるのではないでしょうか。城下町などでは、武家屋敷に伝わるひな飾りをそれぞれの自宅に展示し、一般に向けて公開する、地域ぐるみのひな祭りを行うエリアもあります。

近年は住宅事情により、殿・姫・三人官女の「三段飾り」、または殿と姫のみの「親王飾り」で楽しむご家庭が多いと思いますが、我が家のひな人形も、親王飾り。

娘の初節句に購入した、人形作家・柴田家千代さんによるひな人形です。

眉がキリリと引き締まり凛とした表情の殿と、ふっくらとした頬に少し幼さが残る姫の顔。全体の雰囲気をぐっと引き締める高貴な紫の衣装と、桜色のグラデーションの十二単。背後にはモダンな屏風。殿と姫のふたりだけのシンプルな飾りですが、華やかさと重厚感をリビングにもたらしてくれ、とても気に入っています。

お顔や衣装だけでなく、台座、菱餅、花飾り、ぼんぼりと、さまざまなパーツのひとつひとつに改めて目を凝らすと、こんな所にこんな意匠が! と初めて気づくものもあったりして、日々眺めて楽しんでいます。

さて、本格的なひな飾り以外にも、玄関やちょっとしたスペースに桃の節句をイメージさせるものを置くだけでも、季節感をもたらし、楽しいもの。

我が家では、骨董市で手に入れた対のこけしを玄関に飾りました。8センチほどの小さなこけしですが、かわいらしい存在感で、私たち家族を見送り、出迎えてくれます。

男の子の胴体には、萩とスズメ。女の子にはバラと瑠璃色の鳥が緻密に描かれています。二羽は言葉を交わしているようにも見えますが、瑠璃色の鳥はスズメを相手にしていない様子。こけしの男女、二羽の鳥、植物と、描かれているこれらのモチーフには、なにか隠された意味があるのかもしれません(読み解けた方はお知らせください!)。

我が家の玄関に飾るのは、だいたい骨董市でみつけた古いもの。季節や節句ごとに飾りを変えています。「このお飾りを出す時がきた!」と品々を出し入れするのは、案外楽しいひとときです。

マンションやモダンなお家に古い民藝品などを置いてみると、思った以上に空間にしっくりはまることも。節句などの日本伝統行事の際に使えそうなお飾りを探しに、骨董市などに出かけてみるのもいいかもしれません。もちろん、サムライオークションに出品されている品々もぜひチェックしてみてください。

さて、ひな祭りに関連した展示をご紹介します!

東京・日本橋にある〈三井記念美術館〉では、「三井家のおひなさま」展を3年ぶりに開催中。三井家の夫人や娘たちが愛したひな飾りは、日本屈指の財閥ならではの絢爛さ。約3メートルにもなるひな段飾りや、銀細工でできたひな道具の展示も。衣装も顔立ちも、時代によってさまざまなおひなさまをぜひ見比べてみてはいかがでしょうか?

Information

三井家のおひなさま

場所:三井記念美術館(東京都中央区日本橋室町2‐1‐1 三井本館7階)

会期:2023年2月11日(土)〜2023年4月2日(日)

時間:10時〜17時 (最終入場時間16時30分)

休館日:月曜日、2月26日(日)

観覧料:一般 1,000円、大学・高校生 500円、中学生以下無料 公式サイト:三井記念美術館

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