県立や区市立の美術館に比べれば規模は小さいながらも、すばらしい名品を所蔵していたり、オツな企画展を開催したりする「個人美術館」。以前、東京都・中野区の〈東京黎明アートルーム〉や、東京都・世田谷代田にある〈齋田記念館〉をご紹介しました。
今回は「個人美術館・第3弾」として、東京都・九段下にある〈千秋文庫〉をご紹介します。

〈千秋文庫〉は、旧秋田藩主・佐竹家に伝わる貴重な文化資料を一堂に集めた博物館で、同家の家令職を勤めていた小林昌治氏によって1981年に設立されました。
平安時代の名門・新羅三郎 源義光の後裔とされている佐竹家。1131年頃から太田や水戸(現在の茨城県)を治めてきましたが、徳川の時代には秋田へと国替えになり、明治維新までの約260年間、秋田藩を統治したとされています。
そんな佐竹家が所蔵していた膨大な資料や作品を小林氏に託したのは、34代当主・義春侯。太平洋戦争の戦火が広がるなか、後世に伝える文化財として保存してほしいと懇請したといいます。資料の保管には大変苦労したようですが、小林氏の私財を投じて〈千秋文庫〉が開設されました。
雪舟、英一蝶など、有名な画家の“模写絵”
〈千秋文庫〉では現在、「茶道と花鳥風月」と題した企画展を開催中。佐竹家お抱えの狩野派絵師たちが描いた、名画の模写絵を中心とした内容とのことで、後期の展示にお邪魔してきました。
展示室に入ってまず目に飛び込んできたのは、雪舟の『天橋立図』の模写絵。大きな屏風に山々や木立、寺院や京の家々が緻密に描き込まれ、インパクトがあります。模者は不明とのことですが、雪舟の作品をかなり忠実に描いていると感じました。

ほかにも「山水」「枯林に鵲」という雪舟の模写絵があり、過去ブログ「画聖・雪舟が美術史に与えたインパクトを紐解く展覧会」でもご紹介したとおり、雪舟の人気さを改めて知る思いでした。
また、本展で多く見られたのが江戸中期の画家・英一蝶の作品の模写絵。燕、烏、鶏などの鳥をモチーフにした絵が多く、茶会の床の間で楽しまれていたのでしょう。ほかにも、俵屋宗達や狩野探幽の模写絵もありましたが、あくまで“資料”といった雰囲気。気軽に楽しめる企画展でした。
佐竹家代々の印章は必見
展示室の一番奥には、佐竹家代々の印章、花押印がずらりと並ぶブースもあります。きっと、サムライオークション・ユーザーの皆さんにとっては興味深い展示ではないでしょうか!
神獣、亀、蛙など、緻密で趣きのある彫りがなされた印章や印材の数はゆうに100を超えています。さまざまな古印材、翡翠、透明度の高い水晶、大きな琥珀など、希少な素材も見受けられます。最もユニークだったのは、象もしくはマンモスの歯らしきもの。朱肉が付着していたので、印として使われていたようです。
ほかにも、入れ子箱のような細工があるもの、1つの石材から箱と印を彫り出したものなど、鑑賞用としても楽しめるものも多々。印章は常設展示かと思いますので、訪れた際はぜひチェックしてみてください。
靖国神社や、皇居・田安門側のお濠も近い〈千秋文庫〉。木々が色づき、散策も楽しい季節です。ぜひ九段下の散策がてら、訪ねてみてください。
Information
茶道と花鳥風月
会期:2025年9月16日(火) ~ 12月13日(土)
会場:千秋文庫(東京都千代田区九段南2-1-32 青葉第三ビル内)
開館時間:10時~16時 ※最終入館は15時30分
休館日:月・日曜、祝日
入館料:一般450円、大高生350円、中学生以下無料
リンク:千秋文庫 公式サイト










































