肥前国(現在の佐賀県や長崎県周辺)を発祥とし、1610年代頃から生産され、18世紀後半頃までヨーロッパにも数多く輸出されてきた江戸時代の「伊万里焼」。現在も料亭や旅館などにて、和食を品よく盛った目にも鮮やかな伊万里焼に出会えます。
ところで、伊万里焼にはさまざまな「いきもの」が描かれた作品も多くあります。動物、鳥、魚、虫といった身近ないきものから、舶来の珍動物、吉祥意を内包している幻獣など。そうした伊万里焼の「いきものモチーフ」作品を30種類以上も集めた展覧会『古伊万里 いきもの図会展』が、東京都渋谷区の〈戸栗美術館〉にて開催されています。

展示室内が“いきもの図鑑”に⁉
伊万里焼に描かれた「いきもの」というテーマもユニークな本展ですが、さらに展示構成もユニーク。
大坂の医師・寺島良安によって、江戸時代中期に編纂された百科事典『和漢三才図会』の項目分類を参照し、展示室内を“図鑑”に見立てた構成となっています。ひとつひとつの動物について、モチーフとしての意味、逸話などに加え、博物学としての見方にも触れられており、江戸時代のいきものに対する認識も紐解かれています。さて、どんないきものが紹介されているでしょうか?
「霊獣」は描かれるものの、「四神」は描かれない?
龍、鳳凰、麒麟など、いわゆる「霊獣」と呼ばれるものは、古くから磁器作品に多く描かれてきたモチーフのようです。本展でもこれらの霊獣は登場します。

個人的に興味深かったのが「麒麟」。『和漢三才図会』には「麕(くじか)の身体に牛の尾、馬の蹄をもつ。五彩で腹の下は黄。高一丈二尺(約3.6m)、蹄は円く、角はひとつ。角の先端に肉がある」と記されているのだそう。伊万里焼に見られる麒麟も、火焔、たてがみ、鱗、甲羅のような文様などが表現されていたりと、空想の瑞獣らしく作品や媒体によって描き方もプロポーションも多様なようです。本展では18世紀頃作の麒麟をあしらった伊万里焼2点が展示されています。
ちなみに、中国風水でお馴染みの青龍、白虎、玄武、朱雀という「四神」は、伊万里焼ではほとんど見られないのだとか。奈良の高松塚古墳には四方を護るように四神が配されているなど、7世紀末~8世紀初頭にはその概念が日本にももたらされていたはずですが……なかなか不思議なエピソードです。
姿を愛で、描き、さまざまな意味を付加させた「鳥」
本展で一番多く取り上げられていたのは「鳥」。四霊に数えられる鳳凰、長寿の象徴として表される鶴、いち早く夜明けを告げることから破邪の力があるとされる鶏、厄除けに深く関わる烏など、瑞鳥からごく身近な鳥まで伊万里焼のモチーフとなっています。

そして、鳥ごとに付加された意味や別モチーフの取り合わせも紹介されていました。例えば「雀」。中国では「竹雀(zhú què)」と「祝爵(zhù jué)」の発音が似ていることから、立身出世を寓意するとして好まれたのだそう。
日本でも「竹に雀」は取り合わせが良いとされており、戦国時代の武将で知られる上杉家、伊達家の家紋は竹に雀。また、冬毛で膨らんだ雀の姿は「福良む雀(ふくらむすずめ)」と当て字され、豊かさを表す縁起物として親しまれてきたようです。「雀」ひとつとっても、こんなにさまざまな意味合いやエピソードがあり、「へえ!」「興味深い!」が止まりません。

ほかにも「鹿」を例に挙げると、「鹿(lù)」と「禄(lù)」の発音が同じことから豊かさの象徴となったり、神仙・寿老人の乗獣として描かれることから長寿を表したり、つがいの鹿は「偕老(夫婦がともに年をとるまで仲良く一緒に暮らすこと)」とされ、夫婦円満のモチーフとしても親しまれているようです。
こうした取り合わせを知っていると、例えば茶の湯の席などでも、亭主が軸や飾り物に込めた趣向や思いが読み解きやすくなりそうですね!
渋谷駅から徒歩圏内ながらも、閑静な住宅街のなかの美術館で風雅な教養に浸れる、心地いい時間となりました。展示は3月22日(日)まで。ぜひお出かけしてみてください。
Information
古伊万里 いきもの図会展
会期:2026年1月8日(木)~3月22日(日)
会場:戸栗美術館(東京都渋谷区松濤1-11-3)
開館時間:10時~17時、金・土曜は10時~20時(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月・火曜、2月23日(月・祝)は開館
入館料:一般1200円、高大生500円
※中学生以下は入館料無料
リンク:戸栗美術館 公式サイト