黒澤明や白洲正子も愛した「根来塗」の展覧会が〈サントリー美術館〉で開催中

日々の食卓に欠かせない、塗り物の椀や器。ウルシの木から樹液を採取し、その樹液を精製して、成型した木地に塗り重ね、その乾かし方も独特。漆器が完成するまでの工程を知れば知るほど、先人たちの知恵と工夫、その美意識、何をも恐れぬ挑戦心と好奇心に頭が上がりません。

日本にはいくつかの漆器の産地がありますが、和歌山県にも「根来塗」と呼ばれる漆工品があります。堅牢な下地を施した木地に、何度も黒漆を重ね、最後に朱漆を塗って仕上げる根来塗。使い込むにつれ、鮮やかな朱の表面から中塗りの黒漆が表出し、なんとも言えない独特の表情を見せてくれます。

現在、東京・六本木にある〈サントリー美術館〉では、根来塗をテーマにした展覧会「NEGORO 根来―赤と黒のうるし」が開催中です。根来塗のルーツを辿れば、7500年以上前にも遡るということですが、輪島塗や若狭塗などに比べれば、なかなか耳にすることのない漆器ではないでしょうか。根来塗とはどのようなものかを知るべく、美術館を訪ねました。

500年以上経っても、制作された当時と大きく変わらない!?

会場は「第1章:根来の源泉」「第2章:根来とその周辺」「第3章:根来回帰と新境地」という3構成。

第1章では「根来」という呼び名が定着する以前の時代に制作された、赤と黒の漆工品を中心に展示されています。古代から「赤」の色は、太陽、生命、神秘的かつ呪術的な意味合いで使用されており、朱に塗られた漆器は神饌具にも用いられてきました。本展に展示されている品々も、全国の神社仏閣に伝来・伝存するものが多々。

展示の冒頭を飾るのは、サントリー美術館所蔵品をはじめ、全国の神社、美術館、個人から貸し出された、たくさんの「瓶子」。神に献酒するための神饌具だったようですが、その姿の美しさには目を見張るものがあります。張り出した肩が緩やかにくびれて細くなっていくその姿は、まるで女性の身体を彷彿させる優美さ。また、表面の朱漆が擦れ、下の黒漆が顔をのぞかせる古色も美しいです。

同館が所蔵する「瓶子」が本展のメインビジュアルを飾っています。

同館が所蔵する瓶子は一口ですが、もともとは一対のものだったそう。そして今回、滋賀県にある〈MIHO MUSEUM〉から貸し出された瓶子は、サントリー美術館所蔵の瓶子と対だったことが確認され、並んで展示されています。永い時を経て再会した瓶子。なんだかロマンチックです。

また、1262年~1519年に制作された「折敷」(食器や供物を乗せる道具)も数多く展示されており、なかには「近年制作しました」といわれてもわからないような、保存状態が極めて良好なものも。堅牢さが特徴といわれる根来塗の驚くべき耐久性に圧倒されます。

第2章は、高野山の学僧・覚鑁上人(1095~1143)が開創した寺院「根來寺」についてや、根來寺で生産されていた朱漆塗漆器と、それ同様の様式の漆器が各地でつくられるようになったことなどが、関連する漆工品や資料と併せて紹介されています。

第3章では、1585年に根來寺が衰退したあとの「根来」を巡る歴史的評価や変遷に触れた内容が展開します。江戸時代には在銘品の蒐集や古例を研究・模写する人もいた様子。さらに明治時代には、黒川真頼や高木如水といった知識人たちが「根来」の足跡を積極的に探し求めていたのだそう。

そして大正期に提唱された民藝運動においても「根来」の美が見いだされ、柳宗悦の著『手仕事の日本』にも「根来塗」の名前が登場します。

この章では、黒澤明、白洲正子、松永耳庵といった著名人が所蔵した根来塗の盆、盃、大盤の展示も。個人的には白洲正子が所有した、シャープで凛とした佇まいの盃に惹かれるものがありました。この朱盃でいただくお酒、さぞかし美味しいことでしょう。

今回展示されている漆工品の多くが、500年以上も前に制作されたものにもかかわらず、つくられた当時と大きく変わらない形で伝在していることが、とにかく大きな驚きでした。漆工品の美しさ、使いやすさ、堅牢さ。7500年前にこの技術を開発した人々や、それらを発展させ、継承してきた人々へ、ただただ畏敬の念を抱き、その技術が永劫継承されていくことを願いたくなる展覧会でした。

サムライオークションのユーザーにはきっと刺さる展覧会のはず! ぜひお出かけしてみてください。

Information

NEGORO 根来―赤と黒のうるし

会期:2025年11月22日(土)~2026年1月12日(月・祝)

会場:サントリー美術館(東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階)

開館時間:10時~18時(金曜は10時~20時)

※1月10日(土)は20時まで開館

※いずれも入館は閉館の30分前まで

休館日:火曜、12月30日(火)~1月1日(木・祝)、1月6日は18時まで開館

入館料:一般1800円、大学生1200円、高校生1000円

※中学生以下無料

※障害者手帳をお持ちの方は、ご本人と介助の方1名様のみ無料

リンク:サントリー美術館 公式サイト