歴史的で貴重かつ、日本美術の歴史を紐解くような資料を有するのは、なにも日本国内に限りません。例えば、1753年に創立された英国・ロンドンの〈大英博物館〉には、文化的な創造が花開いた江戸時代の美術品が多く渡り、その量・質ともに充実しているといいます。
そんな〈大英博物館〉が所蔵する、主に江戸時代の絵画と版画を中心に選り抜かれた約200件の美術品が並ぶ展覧会『大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱〜海を越えた江戸絵画』が、東京・上野の〈東京都美術館〉で開催中です。会期は2026年10月18日(日)まで。その後は大阪の〈中之島美術館〉を巡回し、2027年1月31日(日)まで楽しめるようです。
本展の目玉は、桃山時代末~江戸時代初期に狩野派の絵師によって描かれ、奈良県の屋敷にあったものが離れ離れとなり、英国の〈大英博物館〉、青森県の旧家、米国の〈シアトル美術館〉に分蔵されていたという襖絵。これらは約150年振りの再開だといいます。ほかにも、英国から日本へ初里帰りの作品もあるとのことで、なかなかお目にかかれない美術品を鑑賞するべく、展覧会にお邪魔してきました。


円山応挙などの有名絵師から、知られざる作家まで!
狩野派の絵師たち、伝・尾形光琳、円山応挙、谷文晁、鈴木其一といった有名な絵師の作品が多々展示されている本展。なかでも点数の多かったのが円山応挙の作品です。応挙の多彩さを目の当たりにするような、作風もさまざまな作品が4件展示されています。その中のひとつ、親虎と3頭の子虎が描かれた《虎の子渡し図屏風》は初里帰りの作品。「虎が子を3頭産むと、獰猛な子虎が必ず1頭おり、兄弟を殺そうとするので、母虎は小虎を2頭にしないように7度行き来して川を渡る」という中国の故事を題にしているのだそう。
また、日本ではあまり調査が進んでいない作家や、いつしか忘れられた作家の優品が多数含まれているのも本展の見どころ。例えば、1800年前半に活躍した絵師・川村文鳳。本展に並ぶ《鴨川武戯図巻》は、勧進相撲の様子を描いた約18メートルにも及ぶ絵巻。中央には相撲をとる力士が描かれ、土俵の周りには、ほっかむりをしているオジサン、タバコをふかすオジサン、西瓜を食べるオジサン、鼻をかむオジサンなど、オジサンづくし! 平和な江戸期の町民の娯楽をユーモラスに描いています。
《虫行列図》を描いた西山芳園も知る人ぞ知る絵師のようですが、細密でリアルかつ擬人化された秋の虫たちがとても楽しげで、とても心惹かれる作品でした。撫子、吾亦紅、稲穂、野菊などを長槍のように掲げて行列する虫たちも。ずっと眺めていたくなる趣きがあります。
イギリスが所蔵する、日本美術コレクションの特徴とは?
第2章の「浮世絵―江戸の“いま”を映す万華鏡」では、鈴木春信、鳥居清長、歌麿、写楽、豊国、国貞、国芳、北斎、広重など、浮世絵の名士の作品がずらり。洋の東西を問わず、つとに名高い北斎の代表作《富岳三十六景 神奈川沖浪裏》も展示されています。
また、謎の絵師として知られ、主に役者絵を描き、その容貌の欠点までも強調した東洲斎写楽。日本では不評を買い、その活動期間は約10カ月ほどと言われますが、海外では人気の絵師だったのでしょう。写楽の作品も多く海を渡ったようです。ところで錦絵とは、薄利多売の採算のなかで成立する商売だそうですが、版元からの指示か、自らの意図か、写楽は豪華な黒雲母摺りの大判役者の大首絵を発表しています。本展にも、背景に黒雲母がキラキラと煌めく、役者の個性際立った作品が多数展示されていました。

本展に並ぶ作品を拝見して感じたのは、どこか愛嬌があったり、クスっと笑えるようなユーモラスな作品が多いということ。美しさ、雅、わびさびといった伝統的で正統派な日本美術や、精神性や理想郷を表現する山水画などよりも、擬人化された虫や動物、妖怪、ユニークな構図の作品など、まるで漫画の一コマのようなユーモアにあふれた作品が海外で好まれたような印象です。町民のリアルな暮らしが描かれた浮世絵が人気を博したのも合点がいくような気がしました。
さらに、本来の用途通りに日常使いされたり、頻繁に出し入れされたりしたのではなく、あくまで蒐集や資料という位置づけだったからか、多くの日本美術コレクションの保存状態がよく、色鮮やかな作品が多い印象でした。展覧会の名の通り、まさに“百花繚乱”な本展。会期も長いので、ぜひお出かけしてみてはいかがでしょうか。
Information
大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱〜海を越えた江戸絵画
【東京会場】
場所:東京都美術館(東京都台東区上野公園8-36)
会期:2026年7月25日(土)〜10月18日(日)
時間:9時30分~17時30分
※金曜は20時まで
※入室は閉室の30分前まで
休室日:月曜、10月13日(火)
※8月10日(月)、9月21日(月・祝)、10月12日(月・祝)は開室
入室料:一般2300円、大学・専門学校生1300円、65歳以上1600円
※18歳以下、高校生以下無料
※身体障害者手帳などをお持ちの方とその介護者(1名まで)は無料
※18歳以下、高校生、大学・専門学校生、65歳以上の方は、証明できるものを提示
※毎月第3土曜・翌日曜は「家族ふれあいの日」により、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住、2名まで)は一般通常料金の半額。住所のわかるものを提示。販売は東京都美術館チケットカウンターのみ
【大阪会場】
場所:大阪中之島美術館(大阪府大阪市北区中之島4-3-1)
会期:2026年10月31日(土)~2027年1月31日(日)
時間:10時~17時
※金曜は20時まで
※入場は閉場の30分前まで
休館日:月曜、11月24日(火)、12月31日(木)、1月1日(金・祝)、1月12日(火)
※11月23日(月・祝)、1月11日(月・祝)は開館
チケット:販売開始前