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「秋の野に 鈴鳴らし行く 人見えず」
1968年に日本人初のノーベル文学賞を受賞した川端康成が、その知らせを受けた夜に詠った有名な句です。言葉遊びが隠されていて、「野(ノ)」「鈴(ベル)」で「ノーベル」と表現しています。川端康成は、この書を友人である画家の東山魁夷に贈りました。東山魁夷はこの歌を屏風に仕立て、その裏に秋の野を描いたそうです。
川端康成といえば、「雪国」「伊豆の踊子」など多くの名作を残した文豪です。文学だけでなく美術にも深い理解がありました。絵画や工芸品の他に、土偶や埴輪まで、様々なものを収集していました。彼の小説は、いわゆる王道とも言える文体で書かれていることが特徴です。客観的で少し離れた位置から見ているような視点で、抽象的でありながらリアリティを表現して読者を引きつけます。
交友の深かった東山魁夷は、文化勲章も受賞した、戦後を代表する日本画家です。作品『道』で風景画家としての地位を確立しました。川端との交流は、1955年に東山が川端の本の装丁を手がけたことをから始まりました。川端が東山の作品を購入したり、東山が川端に絵を贈ることが頻繁にあったようです。手紙のやり取りが100通を超えるともされていて、歌に言葉遊びを含めるところからも伺えるように、とても親しい間柄だったと言えます。
東山も川端と同様に、古美術から近現代美術の作品を収集していました。川端の何かを鑑賞しているかのような文体は、東山と美術品を通じて対話する中で磨かれたのでしょうか。また、幻想的な作風の東山の美学は川端と似ているところがあり、それぞれの存在が創作に大きく影響していたことは間違いないでしょう。美術と文学を越えた二人の交友が、素晴らしい作品に繋がったのかもしれませんね。