【好きを仕事に《ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪》】

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ウィズ・コロナ時代の未来が多く論評されています。普通の風邪のようになるという専門家の意見もありますが、果たしてそうなるのでしょうか。全くわからないですね。健康なのにマスクをつけて部屋を出る時、今だに笑ってしまうことがあるんですが、誰がこんな未来を予測できたでしょうか。

人間はどんなに過酷な状況におかれたとしても、希望さえあれば耐えることができると言われます。では、希望とはどこにあるのでしょうか。私は自分が好きなもの、大切にしているものの中にあるような気がします。昔、将来やりたい仕事がわからないとそんな話題で時間を潰していた時期もありましたが、今思えば日常の中に好きなことはいくつかあって、その延長線上に今の自分の仕事や生活スタイルがあるなと感じます。若い時は、いろいろと自意識に悩まされるわりに、自分の内面にしっかりと目を向けることはできないものです。

ドキュメンタリー映画『ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪』(2018年日本公開)という作品があります。オリジナルタイトルは『Art Addict』。こちらの方がしっくりくるのですが、初公開された本人の肉声で語られる自分史を軸に、アーティストや美術関係者、評論家など、彼女を知る証言者たちがペギー・グッゲンハイムの人物像を多視点で丁寧に解説しています。

自分の最大の功績はジャクソン・ポロックの発見と語り、マルセル・デュシャンがモダンアートの先生だったこと、アルベルト・ジャコメッティやサミュエル・ベケット、サルバトール・ダリなど、幅広いジャンルのアーチストとの色恋話や買付時の逸話を紹介。そしてパブロ・ピカソやジャン・コクトーとの親交などなど…現代美術史の教材になるような貴重な映像が盛りだくさんに編集されています。

資産家の家に生まれた女性が道楽としてアートを蒐集し、権力の力で市場価格を釣り上げていったのでは? という穿った見方をしがちなのですが、そもそも彼女がモダンアートと関わり始めた1920〜30年代のヨーロッパでは、モダンアートは全く評価されていませんでした。40年に戦争の激化を恐れてパリから脱出する際にも、コレクションの一時避難先としてルーブル美術館に相談した彼女に対して、フェルナン・レジェやピカソ、ピート・モンドリアンの作品はルーブルで守る価値はないと断られたそうです。

確かに彼女が買い集めた、偉大なモダンアートコレクションの中心作品は、総額約4万ドル。今では、その中のどんな小品1点でも、4万ドルで買える作品はありません。当時、買付に臨む彼女は、アーチスト達からでさえ、裏では冷笑と軽視の対象だったようですが、それでも直感に従う勇気を持ち、それを貫き続けたことで他に類を見ない偉大なコレクターとして成功したわけです。

特にハンス・ホフマン、クリフォード・スティル、マーク・ロスコ、ロバート・マザーウェルなど、アメリカ抽象表現主義の画家が世に出たのは、彼女の功績が大きいのは間違いありません。その他にも、ヨーロッパとアメリカのモダニズムを結びつけ、シュールレアリスムと抽象表現主義が発展していく中で、彼女が果たした役割はとても大きなものだったと思います。 美術界だけではなく、一般的なビジネスの世界にも女性が活躍するフィールドがまるでなかった時代、彼女はどんな希望をもってその厳しい世界を生き抜き、成功をつかんだのか。ロールモデルにするのは難しいでしょうが、コレクターとはなんぞやを知るヒントにはなる映画だと思います。モダン・アートの分野ではありますが、骨董コレクターの方にもオススメです。

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