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後悔先に立たず。無理をしてでも時間を作って行くべきでした。神奈川県立近代美術館から松濤美術館へと巡回展示される予定だった【フランシス・ベーコン:バリー・ジュール・コレクション】展が、緊急事態宣言延長を受けて閉幕しました。盲亀浮木と言いますか、とても貴重な機会を逃してしまったようです。
20世紀で最も重要な画家の一人と評価されているフランシス・ベーコン(1909〜1992年)。
専門の美術教育を受けていない彼が、どのように強烈なオリジナリティを確立させていったのか。あるいは、生前に(下絵としての)ドローイングは描かないと話していた彼の習作らしきドローイングから、その創作プロセスを知ることができる日本初公開の貴重なコレクション展だっただけに、展覧会の中止はとても残念です。
怖れとか恐怖とか、そういう感情を呼び覚まされるベーコンの作品。そこに現代社会に生きている自分の中にあるリアリティや実感みたいなものを感じてしまうからこそ、どこかに答えが埋もれているようでもっと見たいという気持ちになるのだと思います。未だに強い力を持ち続けている作家の創作の秘密を少しでも知りたくて、せめてもにと展覧会の公式カタログを入手しました。
改めて実感したのは、やはり作家の情報に多く触れる事は作品の理解を深め、想像世界の楽しみを広めるのだなということ。つまり、作家本人は見せたがっていなかった創作過程や、ライフワークとも呼べるような日常の創作物を知ることで、作品の意図や思い入れ、気持ちの変化などを確かに感じ取ることができました。
作家の人格と作品を関連付けるべきではない、という意見にも一理あるとは思いつつ、同時代を生きていた現代作家だからこそ、いま目の前にある不条理や混乱、苦悩といったテーマがベーコンの人生からどのように立ち上がってきたかは想像がしやすく、作品の答え合わせをしているような気分になりました。これが中世以前の作家の場合には、こうはいきません。 自分の死を予見していたかのように、ゲイの愛人を追ってスペインに向かう当日、友人であるバリー・ジュールに預けた作品と創作活動の断片たちは、独特の表現を生み出すプロセスやモチベーション、エネルギーを感じさせると同時に、ベーコンの純粋な人間性やその絶望や切望にも触れることができる一級のコレクションだと思います。