【「渋沢栄一」ゆかりの施設に有り!今昔を自由自在に行き来する「山口晃」作品〈バッタリ出合った名画シリーズvol.1〉】

出かけた先で、たまたま大好きな作家の作品に出合うこと、ありませんか? 「ここに、こんな名画が⁉」と、驚きとともにしばらく鑑賞し、なんだかホクホクした気分になったり。近くを訪れたら、つい立ち寄るスポットになっていたりして。

今回は、サムライオークション・スタッフが個人的にバッタリ出合い、つい足を止めて見入ってしまった、弊社独自の視点による「名画」をご紹介します。

その作品とは、山口晃さんの「養育院幾星霜之圖」(2013年)。飾られているのは、東京都板橋区にある〈東京都健康長寿医療センター〉の1階。エレベーター前の広々とした空間で、やさしく淡い色彩ながらも、威風堂々とした存在感を放っています。

山口晃さんは、日本の現代美術家、現代浮世絵師。大和絵、浮世絵、鳥瞰図、合戦図など、日本古来の絵画様式を油彩で描くなど、古くて新しい視点と、じつにユーモラスで心くすぐる作品を手がける画家です。

2019年のNHK大河ドラマ「いだてん 〜東京オリムピック噺〜」のオープニング・タイトルバックを担当したことでも話題になり、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

そんな山口さんの原画作品を、こんなにも間近で見られるとは! たまたま病院を訪れて、ふいにこの大作と出合ったときは、胸が高鳴りました。

横幅2m以上はあるであろうキャンバスには、昔ながらの長屋や西洋様式の建物、そのなかで過ごす人々の姿が描かれています。丁髷に着物姿の人、洋装の人、白衣や作務衣を着た医師らしき人や看護師など、過去と現代が融合したような世界観。

じつはこちら、〈東京都健康長寿医療センター〉と、その前身である〈養育院〉を、歴史の年表と共に描いた作品になっています。

明治5年、救貧施設として本郷に開設された〈養育院〉は、神田和泉町、本所長岡町、上野護国院跡、大塚辻町、現在の板橋と、都内あちこちに拠点を移してきました。その変遷が絵と文章で描かれています。

「ヤレヤレ マタ移動ダ」と引っ越しをする人物のボヤキ、昭和45年11月に提供されていた食事の献立内容も。山口さんの描くモチーフや視点がなんとも面白く、ついニンマリしてしまいます。

ところで、この作品のモチーフである〈養育院〉は、かの渋沢栄一さんが大きく尽力した施設。養育院開設の7年後には院長に就任し、半世紀以上に渡って同院の維持・発展に貢献したといいます。

それらの功績を示すべく、〈東京都健康長寿医療センター〉の2階には「渋沢記念コーナー」が設置されています。渋沢さんによる書や手紙、書籍や資料も多々。〈養育院〉の歴史、関わった人物、医療・福祉の発展の経緯などを知ることができ、もはやひとつの資料館。

山口さんの作品とあわせて覗いてみると、日本における医療や福祉の起こりや、その変遷など、興味深く感じられるはずです。

そして、「渋沢記念コーナー」には小さな図書室もあり、病院を利用する人に向けてさまざまな本の貸出を行っているようです。

さて。 話は山口さんの作品に戻り、絵画の以下の部分を見て、もしかしたら……と思っていたことがありました。〈東京都健康長寿医療センター〉の1階にはカフェがあるんです。

病院を出て「やっぱり!」と確信。絵画には現建物とその内部が描かれているのでした。

この円柱部分の1階はカフェ。そしてさきほど紹介した「渋沢記念コーナー」と小さな図書室はこの2階にあります。リアルとイマジネーション、現在と過去とを自由自在に行き来する山口さんの作品に、改めてノックアウトされてしまいました。

〈東京都健康長寿医療センター〉という場所柄、入院されている方々、そのご家族や関係者などを、クスッと笑顔にさせているであろう山口さんの「養育院幾星霜之圖」。病院を訪れる機会はないに越したことはありませんが、もしも訪ねる際は、本作品を探してみてはいかがでしょうか。

Information

地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター

東京都板橋区栄町35番2号

※病院という場所柄、作品鑑賞のためだけに訪れるのはご遠慮ください。

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